第5話 俺を怖がらない人も少しはいるんですかね?

後日学校での事。

俺が相変わらずの学園生活を送っていると目の前に幼女が立っている事に気が付いた。…あ、幼女だけど幼女じゃないわこの子、ミハル先生だったわ。

背丈が俺の腹辺りまでしかない、体の成長が12歳程で止まってしまったというロリータ先生は俺を見上げ、恐る恐るといった感じで言った。

「あ…あの…えと…………」

「はい?…………」

「…………」

「…………」

「……うぅ……うぇーーーー……………」

泣いちゃったよ……


先生が泣き止むまで10分以上かかった。

俺の持ってた未開封のポケットティッシュは全て先生の涙と鼻水の処理に使われた。

とりあえず俺は俺の席に座り、先生を俺の前の席に座らせ(その席の生徒に頼んだら二つ返事で即ОKしてくれた。相手は笑顔ではなかったが…)先生を落ち着かせる事から始めた。


「それで…お話というのは?」

俺はやっと泣き止んだ先生に改めて訊ねた。

「あ…はい、いえ…その前に、どうもすみませんでした。わたし、昔から結構泣き虫で…ティッシュ、ありがとうございます。優しいんですね」

「いえいえ…」

「あなたを見てると、あなたのお姉さんに可愛がられていた頃を思い出しますよ…」

「あー…ははは…」

そう、マキ姉もこの学校だったんで姉もミハル先生の教え子だったのだ。しかし可愛がると言ってもマキ姉の場合並みの可愛がり方では無かったろう…先生…本当にうちの姉がすいませんでした…。

「おほん…」と咳払いしてから先生は言った。

「えーと、実はですねえ。理事長があなたを見込んで是非お任せしたいお仕事があると仰っていました」

「……………え?理事長が?」

「はい」

うーん…一体何をやらされるんだろう…?俺は特に運動はしてないけど能力により体力的には超自信あるけど…気力的には自信ない。正直メンタル超弱いぞ…。

「詳しい話は生徒会長のユキヒメさんに聞いて下さい。理事長はお忙しいですし」

「はあ……」

「ちなみに、彼女は今おトイレに行ってます。生徒会室にあなたが着く頃には戻ってるでしょう」

何でそんな事が分かるんだ?と思うかも知れないが、ミハル先生には見えているのだ。彼女の能力はその目である。透視、千里眼、それに目をまるで望遠鏡や顕微鏡の様にしたり等、このミハル先生に見えない物はほぼ無いと言っていい。と言っても、その範囲はそれ程広くは無いが。『学園の“監視者センチネル”』の異名すらあるとかないとか…。この人がやたらと泣き虫なのもその目の能力による物なのかも知れない。


という訳で俺は、廊下を歩き生徒会室へと向かった。

ついたが、俺は生徒会室に入るのは初めてだ。ちょっと緊張する…。

軽く深呼吸してから、俺はドアを軽くコンコンと叩いた。

……………あれ?返事がない。ただのしかばねでもいるのかしら?

もう1度ノックしてみたが、やはり返事は無い。

俺はゆっくりとドアを開けてみた。

「失礼しまーす…」

そういいながら中を覗き込んでキョロキョロしてみたが、誰もいなかった。はて?どうした事かしら?と思っていると、後ろから声をかけられた。

「あれ?何かご用?」

振り返るとそこにはポニーテールの少女が立っていた。

彼女はリンカ先輩。生徒会副会長だ。

「あのー…俺、ユキヒメ会長に用があって来たんですけど…」

「ユキ?ユキならまだトイレに籠ってるけど」

まだトイレだったんかい……。て言うか会長を「ユキ」って呼ぶって事はこの人は彼女と相当仲がいいのかしら?

「ほら!あの子普段取り巻き多くてなかなか一人になれる時無いじゃん?時々必要なのよ、一人になれる時が。人気者ってのも大変だわ」

ケラケラと笑いながら言うリンカ先輩。だからってトイレ位しか一人ですごせる場所が無いってのも可哀想に感じるが…。

「そうか君かあ…」と、先輩が俺をジロジロ眺めながら呟いた。

やだ…女の人にそんなにジロジロ見られたら赤くなっちゃう…。

「君も一応、我が校の有名人だしね。もっともユキとは違う方向で知られた名だけど」

「はは…」と乾いた笑いを返す俺。

「おっと失礼。別に悪い意味で言ったんじゃないんだ。気に障ったなら謝るよ」

「いえいえそんな…!」

「安心しなよ。君の事を怖がる生徒や教師は多いけどさ、それでも僕やユキとかは全然君なんて怖くも何とも無いからさ」

……ん?今の言い方はちょっとひっかかるんですけど、んー?…ていうかリンカ先輩って僕っ子だったんですね。

「あら?リン…それに、まあ!あなたでしたの!」

と、そこでようやくユキヒメ先輩その人がやってきた。

「あ、どうも、こんにちは」

「はい、ごきげんよう」

挨拶する俺に先輩も笑顔で挨拶を返した。

「ようユキ!長かったな。大か?」

「もうリン、品がないわよ…」

「にひひ…」

そんな風にしている2人を見ると、本当に仲睦まじい様だった。

「それで…あなたは一体どういった御用で今日はいらっしゃったのですか?……おっといけません。こんな所で立ち話もなんですから中へどうぞ」

先輩は俺を見て問うてきたが、すぐに俺を室内へと招いた。

俺もそれに従って部屋に入った。

「あら?リンは入らないの?」

振り向くとリンカ先輩は廊下に立ったままだった。

「ああ、僕はこれからちょっと用事があるからね。ここにはちょっと通りかかっただけさ。じゃあ、あとはお二人でごゆっくり」

そう言うと先輩はふっと軽く息を吹いた。

するとその口先からボオッとライター並みの小さな炎が出て消えた。

先輩はそれと一緒に手を振りながら去って行った。

今のがリンカ先輩の能力で、今のがあの人なりの別れの挨拶なのだろう。変わってるけどいい人そうだ。

そして扉は閉められた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る