第4話 俺はこんな姉とどう付き合えばいいんですかね?

ある日の事、俺とマキ姉はキャッチボールをしていた。

「いくぞ~」とボールを持った姉。

「おーう」とグローブを構える俺。

「よっ……マキちゃんキャノン!」

ドシュッ!

普通に投げると見せかけて能力でボールを射出して来やがった。

俺はそのボールを受け止められたか分からぬ間に後ろへ10メートル以上ぶっ飛ばされて背中を硬い壁に思い切り叩きつけるはめになった。

「…………何すんだマキ姉ぇ…………」

「おお、悪ィ悪ィ、でもお前なら大丈夫だろ?」

大丈夫じゃねえよ…確かに常人なら搬送されてるけど俺は無傷だ。それでも、痛いものは痛いんだぁ…………ていうか俺がぶつかった壁にちょっとヒビ入ってんじゃねえか…………。

がっはっはっは!と笑うマキ姉に流石にイラっときた俺は普段抑えている腕力を2割近く開放してボールをマキ姉に投げ返した。

ズコーン!

ボールがマキちゃんキャノンより少し遅い速度でマキ姉の頭にヒットしてそのままマキ姉は気絶した。やべっ、ちょっとやり過ぎたかも…………。でもマキ姉丈夫いから大丈夫か。

マキ姉は本当に丈夫で、気絶してから5分ちょいで目を覚ました。

「うーん…ここはだれであたしはどこ?」

「ここは馬鹿でお前は地球だ」

マキ姉の戯れ言を俺は適当に流した。

「そっかー…あたしは地球だったのかー…母なる地球…つまりあたしは既に経産婦…処女受胎とかマリアなの?」

「つうかマキ姉。何で急にキャッチボールになんて誘ったんだよ?」と俺は馬鹿の独り言を無視して尋ねた。

「へへ…たまにはいいじゃんよお。それにお前とは話したい事があったし」

「話?何を?」

俺が聞くとマキ姉は少し声のトーンを落として言った。

「お前、まだ他所の連中にハブられてんだろ?」

「…………」

マキ姉たち家族が知らない訳が無かった。

俺だって今まで一度も友達がいなかった訳では無い。少なくとも小学校低学年の頃にはそれなりに同年代の友達はいたのだ。

しかし、次第に俺の能力が次々に開花していくと、その友達も最初の内は俺の能力を凄いと言ってくれたり憧れを抱いてくれたりして、俺も気分が良かったのだが、やがて俺の力は他の人たちのそれより遥かに高位に存在する事に、俺も周囲も気づいてしまった。そして次第に憧れは恐れへと変わっていき、気づけば俺の周りから、かつていた友達は1人もいなくなっていた。

「まあ、連中の気持ちも分からんでもないけどさ…………」とマキ姉は言う。

「お前は全然悪く無いんだから、自分を責めちゃいけねえよ」

「…………分かってるよ」

そんな事は自分がずっと思ってきた事だ。俺がこうなったのは誰のせいでもない。誰も恨めない。

「…………マキ姉」

「んー?」

「能力って…………どうしてあるんだろうね?」

「…………さあね」

聞いてはみたものの予想通りの答えが返って来た。マキ姉じゃなくてもそう答えただろう。

「でもまあ、あんたが最強ってお陰で、あたしら家族は守られてんだからさ、感謝してるよ」

守られてる…か。確かに昔は俺たち兄弟をいじめる奴らもいた。でもやがて、そんな事をすれば俺からどんな報復を受けるかと恐れたのか、誰もそんな真似はしてこなくなった。マキ姉がボクシングを始めたのも、その守りをより強固にする為という理由もあっての事だった。

「マキ姉…………」

「おっと、ちょっとクセえ事言っちまったぜ、へへ…」とマキ姉は照れ隠しして笑った。

「ま、もし最強のあんたでも困る様な事があったら、いつでもこの姉ちゃんに頼りな。あんたよりは弱いけど、これでも一応あんたらの姉ちゃんなんだからさ」

「…………」

そう言ったマキ姉の姿が、俺にはちょっとだけかっこよく見えた気がした。


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