第3話 俺は家ではどうしてればいいんですかね?
学校を終えて帰宅した俺を待っていたのは2歳下の妹だった。
リビングのカーペットの上でゴロゴロしながらシーズーのひげまると遊んでいた。
5年前、犬が飼いたいと言って聞かなかった妹の為に親父が買って来たのだ。シーズーは犬の中でも吠える事も少なく静かだし、毛も抜けづらいので掃除も少なくて済むというなかなかいい犬種だ。特にこのひげまるは大人しいので本当に世話が楽だ。
妹は「うりうり、んー、ここか?ここが気持ちええんか?」とか言いながらその大きな毛玉に指を喰いこませていた。
「ただいま…」と俺が言うが、妹は返事を返してこない。ええー…お兄ちゃんちょっとショック…。
しかし、妹はひげまるとただ遊んでるだけじゃなく会話もしているのだから無理もない。
妹の能力は動物と話せる事なのだ。
話すと言っても、当然動物が人の言葉を口にする訳でもないし、妹の話す日本語を動物が理解している訳でもない。言葉を使わない意思の疎通が妹には出来るのだ。一種のテレパシーだな。でもお兄ちゃんとも少しは意思疎通しようよねえ…。
俺が自室でしばらくのんびりしてから再びリビングに来ると、もうひげまるとの遊びは終わったのかリビングを出ようとする妹と鉢合わせした。
「あれ?帰ってたの?ただいま位言ってよ」と妹は兄が帰宅してた事を今知った様だった。
「言ったよ…それも小一時間程前に帰ったよ……」と俺はジト目でそう言った。
「ま、あんたがいつ帰って来ても、別にどうだっていいんだけどねっ。ふんだっ!」
そう言って妹はずんずんと歩いてリビングを出て自室へ入ってしまった。
「……ああ、そうかよ……」
いや、別に妹と仲が悪いという訳では無いのだ。確かに妹も思春期だからいつまでも昔の様に「おにいちゃんだいすき!」って訳にも行かないのだ。
でも違うんだよなあ……あいつ確かに「お兄のパンツとあたしのパンツを一緒に洗わないで!」とか「お兄はあたしの前に風呂に入らないで!」とか言う様になったけど……普段は抑えているけど他人の心が読める俺にはバレバレだぞ妹よ。
お前がこっそり俺の脱いだ衣類をくんかくんかすーはーすーはーしたり、こっそり俺の布団に入って枕を抱きしめてこれまたくんかくんかすーはーすーはーしたりしているド変態ブラコンガールだという事は。
いやあの…一応指摘したんですよ?でもそしたらあいつ「そ…そんな事する訳ないじゃない!キモッ!妄想キモッ!」と顔を真っ赤にして容疑を否認し今でもまだ犯行を続けている始末だ。あの子の将来が割りと本気で心配だ……。
夜になると家族5人が全員揃って夕食である。
父はどこかの会社に勤めているが、俺たちが産まれるずっと前からの生粋の二次元ヲタクであり、俺たち兄弟は幼い頃から親父にそのいろはを叩き込まれて育った。
母は50歳近いながらまだ若々しくおっとりとしていていつも大体笑顔でいる。
……で、もう1人の家族というのが…………
「グビッ…グビッ…グビッ……プッハー!」
めちゃめちゃ飲んでる…………
「げえっぷ…」おまけとばかりにデカいゲップを恥ずかし気も無く轟かした。
この20歳にして既にうわばみと化している女はマキ姉、うちの長女である。
「あらあらマキちゃんったら。今日はもうこの位にしときましょうねえ」と母。
「んー…分かったー…」と素直に今飲んでるのを最後にするマキ姉。
いつもの事なのでお互い慣れているのだ。
マキ姉は大学生だが、大学に通う目的が勉学よりむしろ男目当てという女だ。おまけにこの通り辛党で所構わずゲップをしたり尻をかいたり
ぶうっ!
…と、この様に放屁をしたりと非常に羞恥心に欠ける品の無い性格の為、全然男の影も無い残念美人(?)である。身内として恥ずかしいぞ姉ちゃん…………。
「う~ん…つーか…暑いぞ…」と、マキ姉は着ていたシャツを脱ぎだした。
こういうのも見慣れてるので俺は別に戸惑ったりはしないが大きな胸が俺の目の前にこんばんはした。
「ああもう…マキ姉、脱ぐなって言ってんだろ?」と俺は姉を抑えようとした。
「う~ん…触んなエッチ…………あ、いっちゃんならいいぞ~」
と、マキ姉は妹に近づいて抱き着いた。妹がブラコンなら姉はシスコンなのだ。
「ふにゃあっ!マキ姉…苦しい…重い…………あと酒臭い…………」
妹はマキ姉にのしかかられ、体を触られまくり、ちゅっちゅちゅっちゅとキスされまくっていた。
「…………マキちゃん?いい加減にしないとお母さん…怒りますよ?」
と、そこで母の冷たい声がしてマキ姉は即座に動きを止めた。いつもの事ながら凄い即効性だな、家の母の言葉は。
「分かったよ、母さん」そう言ってマキ姉は妹を話して自室へと去って行った。
マキ姉は高校生の頃からボクシングをやっていて結構強いので、家の中では俺に次いで2番目に強い。ちなみにマキ姉の能力は手に触れた物を最高時速200キロ程で射出するという物で、グローブを飛ばしてロケットパンチみたいな事も出来る。当然ボクシングでそんな事やったら反則だけど。
それでも、この家で一番の権力者は母である。母の能力は、頭の中に10ケタ以上の電卓があるかの様に暗算が滅茶苦茶早くて正確だという物だ。家計簿付けるのに向いている為、他所の主婦の皆さんに大変羨ましがられている。
そして家で一番弱いのが親父である…………。
能力は1分間だけ周囲の音が自分だけ聞こえなくなるという微妙な物だ。当の本人は一時的な耳栓代わりとして使っている様だが。
しかし親父だけがショボい能力という訳では無く、基本的に男性の方が弱い能力で、女性の方が強い能力を得る傾向にあるのだ。なぜかは知らんけど。
だから俺みたいに男性でありながら女性以上の強力無比な能力を得る男は世界でも非常に珍しいのだ。
とまあ、これが俺の家族であり、俺の能力に全く恐れもせずに付き合ってくれている数少ない人たちである。ありがたい事で。
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