第46話 襲撃されたみたいなんですけど!
「ぐおぁ!」
野太い悲鳴が聞こえた。
キャットファイトという名のじゃれ合いを繰り広げていたナオとカティーナが手を止めて顔を上げる。
「野獣の雄叫び!」
「違うわよ! テルガー、もしかして」
ナオのボケに律儀に突っ込みを入れるカティーナ。そして即座に不測の事態が起きたことを察する。
「ウィルキンス」
「あいよ」
護衛部隊の動きもまた早い。
カティーナが言うよりも先にテルガーがウィルキンスを呼んでいた。
それだけでやるべきことを察したウィルキンスは、その自慢の脚力を全開に駆け出していく。
護衛である以上カティーナから全員が離れる事は出来ない。それが緊急時であるならばなおさらだ。だが確認をしないのも愚策。そこで一番の手練れであるテルガーが残りウィルキンスが確認へと向かった形だ。
残ったカティーナたちもその後を追う。
「っ! ドーバン」
「お嬢、下がって!」
店の前まで戻ってきたカティーナは蹲っている大男を目にし焦りの声を上げた。駆け寄ろうとしたところ、警戒感を露に強張ったウィルキンスに静止される。
蹲っていたのは護衛の一人であるドーバンだった。
彼はナオの体当たりの巻き添えにより気絶した男を見ていた為、カティーナたちと一時離れ店の前に残っていたはずだった。
だが今のドーバンは一人だけでそれ以外誰も見当たらない。
「何が起こりましたの!? ドーバン、あの方はどうしたのですか?」
見るとドーバンに目立ったケガはなさそうだ。その事にカティーナは安堵するものの、どうやらまだ起き上がれないらしく、首筋を押さえ苦しげにカティーナを見上げた。
「カティーナ様・・・・申し訳、ありません。不覚を取りました」
大きな体を小さく丸めドーバンが謝罪を告げた。
そのドーバンのそばにテルガーがよると肩に手をのせる。
「襲撃か。お前ほどの男がこうも易々とは、一体何があった?」
「テルガー隊長、俺にも分からない。突然背後に誰かが現れたと思ったら首に一撃をもらった。気が付いたらあの男が居なくなっていた」
苦々しく状況を説明するドーバン。その間静かにテルガーは聞き耳を立てウィルキンスが周囲を頻りに警戒に見渡す。
『ナオよ』
(ん? 何アスニャン)
そんなやり取りを突然の事態に付いて行けずほけぇと見ているだけのナオにアストロフィから念話が飛んできた。
『ここに奴の臭いが残っておるぞ』
(奴って、誰?)
どうやらアストロフィはこの場に残っている香りに覚えがあるらしい。
聖獣であるがそういった感覚的の部分は獣と同じなんだな、と妙な関心をしながらナオが訊き返す。
『ほれ、ナオがやけに嫌がっていた厠に現れた、あれだ』
「え、変態!?」
「ひぅ、な、なんですのいきなり。へ、変態って・・・・あなたの格好はそうですわね」
アストロフィが嗅ぎ取ったというものの正体、それはどうやらトイレに出没しナオが本気で恐怖した変態さんらしい。
その突然の告白にナオは驚きと込み上がる恐怖に思わず大きな声をだしていた。
ナオが急に叫んだものだから大きな胸をびくんと震わせカティーナが跳び上がる。それから恨めしそうにナオを睨むと、仕返しのつもりか中々にして辛辣な言葉をナオへとぶつける。
「へ、変態じゃ無くてこれはくノ一に変身・・・・変態ですみません」
辛辣なカティーナの言葉に反論を試みるナオ。だが未だナオの所業にお怒り中のカティーナを見てあっさりと土下座へとフォームチェンジする。
溜息をついて再びテルガーたちと話を再開したカティーナを目端で確認したナオは、
何事も無かったかのように立ち上がるとアストロフィに事情確認を開始した。
(アスニャン、アスニャン、掴まっていたのは変質者さんでそれを変態さんが助けたって事かな?)
『見てはおらぬし、あくまでもあれの臭いがあるというだけだからな、そうだとは言い切れぬぞ。だが状況を考えればその可能性は高いだろう』
(むぅ、変質者さんと変態さんがグルですか・・・・・・・・これは由々しき事態ですね)
何しろどちらも女性の敵だ。
それはつまりカティーナに害をなす可能性がある、謂わばナオにとっての許すまじ外敵ということだ。
そうじゃなくても排除対象として考えていたのだから、これはもう絶対放置できない。
(アスニャン、その臭い追える?)
『ふむ・・・・・問題ないな』
(おけぇ、じゃあそいつらは退治しに行こう)
『良いのか? ナオはあれを怖がっていただろう』
(何言ってるのアスニャン。私言ったよね。必要であればぶっ殺すって)
『う、うむ、そこまで物騒では無かったと思うが、まぁナオが大丈夫というのであれば案内しよう』
闘志をガンガンと燃えさせるナオにアストロフィが若干引き気味となるが、話は決まった。
ナオはカティーナの胸のもとい身の安全を確保するため敵を無力化する事を決心した。
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