第33話 ゴツゴツって言われたんですけど!
翌日。
「では行ってくるわね」
「はい、いってらっしゃいませお嬢様」
「・・・・・・・・」
簡素ではあるが上質なワンピースに身を包んだカティーナ。そのシンプルさ故に彼女の魅力の一つであるスタイルの良さ(強烈な胸部)がより一層際立ち美しく映える。鍔の広いレースがアクセントになっているこれまた白い帽子も彼女の上品さを引き立たせ、どこから見ても清楚なお嬢様のイメージをこれでもかと醸し出している。
その美少女然りとしたカティーナを恭しく頭を下げて見送るのは、彼女の専属メイドであるナオである。
そのあまりにメイドらしいナオの態度にカティーナから怪訝の視線が突き刺さっていた。
屋敷内ではいつも一緒にいる二人だが、今日はカティーナとナオは別行動である。
カティーナは街へと繰り出し買い物をするのだという。その御供はナオではなくヘレナだ。
ナオはと言うとカティーナの計らいにより今日は一日お休みとなっているのだが、今のナオの姿はいつもと同じゴスロリメイド服である。ただこれはナオにとって普段着と同義なので問題は無い。
魔導車に乗り込み出かけるカティーナを見えなくなるまで見送くったナオ。
「くししししし」
決して女の子が出さないような奇妙な笑い声出していた。
「わかってますよぉ、お嬢様。ふっふふ、そうですか、そんなに私が大好きですか!」
隣には誰もいないがエアー背中叩きを決めつつニヤニヤとするナオ。きっとこの場を誰かが見ていれば軽くため息を吐くだけで関わりたくないのでスルーしていったことだろう。
こんな奇妙な行動もナオにとっては常備なのだ。
ナオがメイド服のポケットから徐に大き目な黒い布を取り出すとそれを頭にかぶり
髪の毛をすべてその中に収めて顔の前で結ぶ。
「今日の私は忍び。陰に潜み闇に紛れる」
敢えてそのスタイルを表現するのであれば古式ゆかしい泥棒スタイルとでも呼ぼうか。だがナオの中でこれは忍者スタイルであるらしい。
確かに黒のゴスロリメイド服を着て黒い手拭いをかぶっているとそう見えなくもない。だが如何せん手拭いの結ぶ位置が悪い。ナオが結んでいるのは鼻下だ。
前世でナオの頭は悪くなかったのだが、転生する際に大分脳のねじを締め忘れたらしい。
ただその言動を実行するだけの無駄な身体能力だけはつい最近目覚めてしまっている。
早速とばかりに玄関から離れようとすると、ナオの足元からぷにっとした感触が伝わってきた。
「はて」と視線を下げるとそこにいたのは一匹の白猫。聖獣と呼ばれ長きにわたりこの地を守ってきた巨獣アストロフィが変化した姿だ。
『暇だ。我もつれてけ』
その聖獣が発するのはとても聖獣とは思えない言葉。まるで留守番に飽きた子供の駄々のようにナオの脚にまとわりつく白猫。
そんな駄聖獣に呆れるでもなくナオはすっと抱きかかえた。
「うん、忍者に猫は似合う」
そして誰も共感出来なさそうな理由を口にしてはどうやらナオとして拒否は無いようだ。
「これから私は重要な任務があるのでアスニャンが大人しくしているのなら連れていきます」
『とてもそうは見えんが、まぁ我にとってどうでもいい事だろうからな。少々人の街に興味があったから一緒に連れていってくれればそれで良い』
大層な事を語るナオにアストロフィは大きく欠伸を入れる。ただ単純に外に出たかったようでナオの目的には興味が無いようだ。
相も変わらず老若男女を混成したような声で脳に直接語り掛けてくる。端から見れば抱っこした猫に一人語り掛けるナオの図になるのだが、幸いにしてここに誰も居ない。
アストロフィが抱きかかえるナオの胸元で何度かもぞもぞと体制を変える。そのくすぐったさに笑いをこらえながら「なんです」とナオが問いかけると、アストロフィが首を持ち上げナオへと向き合った。
『うむ、この場所の居心地はあまり良くないな。なんだかゴツゴツして据わりが悪い。これならば肩の上にでも乗っていよう』
あまりに残酷な事がナオの脳内に伝わてきた。ピシリと固まるナオ。そのナオを余所にナオの胸からスルスルと肩へと昇って行くアストロフィ。それから首のあたりに巻き付くような体勢なるといい感じだったのか再びあくびをして目を閉じた。
だがその安住は長くは持たない。
「ふにゃ!」
プルプル震えるナオがむんずとアストロフィを掴んだ。そしてペイっと地面へと投げなげる。
驚きながらもしっかりとしなやかに着地を決めるアストロフィ。『何をするのだ』と恨みがましい目をナオに向けた。
それを見下ろすナオの目には薄っすらと涙が浮かび。
「あ、あ、アスニャンの・・・・・・・・ばがあ゛ぁ゛ぁ゛~~~!!」
そして疾風のごとく駆けだしていった。防犯上高くそびえる敷地の塀を軽々と飛び越え消えていく。
呆気に取られていたアストロフィだが『ま、待つのだ!』と追いかける。
その飛び出してった姿だけみればナオは一流の忍者を思わせるかもしれない。ただし泥棒スタイルで涙と鼻水を流しているその正面からの直視は不可である。
貴族街と呼ばれる王宮近くの住宅地を抜けると直ぐ見えてくる大きな建物がある。古式ゆかしいレンガ造りの壁が情調溢れると、観光の名所の一つとなっているこの都市で一番大きな駅舎だ。
この世界には魔導で動く自動車だけでなく列車も存在している。住宅の作りが中世っぽいだけで決して文化的に現代地球とくらべて劣っているわけではない。電気や電子機器の代わりに魔導や魔方陣といった超常の力が人々の生活を支え、地球とはまた違った形で発展を遂げている。
その魔導列車の駅前はこれまた地球と同じように人々が交流するため多くの商業施設が存在する。
ビルのような高くそびえる建物は無いが、それでも地上10階建てくらいの建物はそれなりにある。
その中の一つ、5階建てくらいでそれほど高くは無いのだが、明らかに他の建物に比べ存在感を放つ建物、そこへ二人の女性が入っていく。
その様子を向かい側の建物の陰から見つめる視線が一つ。
「く、はぁ、ふぅ、おえっ・・・・・車を走って、ひぃ、追いかけるのはぁ・・・・・無茶だった、かもぉ」
壁に凭れて荒い呼吸を整える漆黒のメイド忍者(自称)のナオだ。
ナオはおおよそ8kmほどある距離をカティーナとヘレナが乗る車を追いかけて走ってきた。しかもほとんどタイムラグなしで到着している。更に肩に乗っかっているウェイト(ネコ型聖獣)が地味に重く走り難いというハンデ付きで。とはいえ着いて来れるだけ化け物であることは変わりない。
アストロフィは必至でナオを追いかけ何とか説得の後同伴が許された。「謝れ」と半べそでナオに怒られ、何がそんなに怒っているかアストロフィには分からなかったが、背に腹は代えられないと「すまぬ」と猫頭を下げてのことだ。
『ほぉこれほどの建造物を拵えるとは、人間も随分と出来るものだな』
だがもうそんないざこざはこの一人と一匹には忘れ去っている。
偉そうに肩の上でくつろぐ白猫にジト目を送りつつ、目標を見失わないよう二人を物陰から物陰へと移動しながら追いかける。
「むむ、どうやらあの店に入るようですね・・・・・・・・おほ、これはっ高級ブティックが入ると噂の・・・・・・」
そうナオが尾行しているのは建物に入ろうとしていたカティーナとヘレナである。
今日のナオの遊びはどうやらこの二人の尾行のようだ。
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