第13話 お嬢様が苺なんですけど!

 本日のおやつは苺。


 地球の様な品種改良がされているのかは定かではないが、見た目は地球のそれと大きく変わらない。


 真っ赤な宝石の様な苺をいっぱい乗せた器と、付けて食べるための濃縮ミルクがたっぷり入っ器をトレーに乗せてナオはお嬢様の部屋へと嬉々として入っていった。


「おっじょおっさまー、おやつですぅ」


 扉の前で嬉しそうに声を上げると、塞がってる両手の代わりと、小ぶりだけど形の良い丸いお尻で扉を押し開けていく。そしてお尻をふりふりさせながら後ろ向きに室内へと入っていく。


「・・・・・・・」


 その有様にお嬢様は絶句。


 無言で渋い表情を作るカティーナの事を気にもせず、室内にある丸いアンティーク調のテーブルにトレーを乗せると、椅子を引いてはカティーナへと満面の笑みを浮かべた。


 カティーナはすごすごとを座る。すると然も当然の様に対面にナオも腰を下ろした。これは通常のメイドの在り方としてはあり得ない。主人と同席するなどもってのほかだろう。


 しかしカティーナはナオにジト目を向けるだけで咎めることもせず、いつもの事と諦めの吐息を漏らしただけだった。


「聞いたわよ、ナオ。貴方またとんでもない事を言ったらしいわね・・・・・んん~♡」


 ナオが苺を用意した取り皿に数粒乗せカティーナの前に置く。カティーナはナイフで苺を小さく切り取り、艶やかな唇で甘いキスをするように口内へと運び入れる。

 ナオに小言こぼした表情はその瞬間花のように綻び、ワントーン上がった声を漏らす。


「あむ、そんなに変な、むぐむぐ、事は言ってないですよ。ごくん」


 カティーナと違って盛られた苺の山に直接フォークで突き刺し、丸ごとほおばるともしゃもしゃ食べながらしゃべる。


「普通に食べてますけど、これわたくしのおやつですわよ」

「ちょっとくらいいいじゃないですか、けち」

「け、けち・・・・・・・もういいですわ。で、魔物と戦いたいが変な事じゃ無いとはおもえませんわよ。どこの世界に戦いを望むメイドがいるのですか」

「ん?何でです?・・・・ぱく、うぐもぐんぐ・・・・魔物がいる。戦う。強くなる。これ普通・・・・あむ、んぐんぐ・・・・メイドと言えばバトル!戦うのが基本じゃないですか!」

「ちょ、ナオ食べすぎ。わたしくしのが無くなるじゃないの」


 何ともおかしなことをナオが口走っているのだが、次々と苺が奪われていく事に焦ったカティーナはそれを聞いてすらいなかった。


「そんなちまちま食べてるのが悪いんです」

「貴方の食べ方が雑なだけで、わたくしの食べ方が正しいのです。女の子なんですからもう少し品位や作法を気を付けおかないと、あぁまた食べましたわ。もうこれはわたくしのって言ったじゃないですの」


 カティーナの説教どこ吹く風。言われている傍から、目をカティーナに向けたままフォークは迷うことなく苺を捉える。捕まえた苺を流れ作業の如く口へと持っていく。

 小ぶりな薄ピンクのナオの口なのに、不思議と苺は淀みなくすっぽりと消えていく。

 その傍若無人な従者にカティーナは慌てて苺が積まれた器を抱えて自分の所に引き寄せた。


「あぁぁ、ズルいですよお嬢様一人占めなんて」

「だからこれはわたくしの」

「私苺好きなのにぃ!」

「わたくしだって苺は大好きなの!」


 憤慨したナオが手をぶんぶんと振り回し猛抗議。カティーナはいやいやと頭を振るう。


「そもそも貴方たちの分は別であるでしょう。なんでここで食べているのよ」


 レヴァナンス家はブラックではない。ちゃんと従業員に対して福利厚生を確りとしている。食事やおやつの質だってそうだ。数や豪華さは違えど、庶民からしたらいいものを食べさせてもらっている。こうした果物だって確りと全員分が用意されるのだ。


 そしてこのナオが持ってきた苺はあくまでもお嬢様用のはずなのだが。


「だ、だってさっきつまみ食いしたら、お前にはおやつはやらないってゲンドラさんがぁ」

「それはナオが悪いのではないの。どうしてわたくしのを食べるの、あぁまた」


 言い合いをしている間に隙間からナオのフォークの強襲に、カティーナはインターセプトできず苺を強奪される。カティーナの悲痛な叫びもむなしく苺はナオの口にまたしても納まっていってしまった。


「ふふん」


 半分涙目のカティーナに、ナオは胸を逸らし勝ち誇った顔をする。守れるものなら守って見ろと挑発。普通なら主人に対してあるまじき蛮行である。

 流石のカティーナもそのナオの顔には頭に来たのか、細く品の良い眉をキッと釣り上げると、フォークを手に取り高々と掲げ上げた。


「そっちがその気ならわたくしにも考えがありますわ」


 そう宣言すると取り皿を端に寄せて山盛りの苺を自分の前へと置いた。


「まさか、お嬢様がそんなはしたないことを」


 ナオがわざとらしく嘶く。


 カティーナが「見てなさい」と目を細め、フォークを苺へと振り落とした。



 瞬間。



 角度が今一だった為か或いは別な要因か。刺される筈だった苺はフォークに弾かれ勢いよく跳ねる。真っ赤に売れた大粒の苺は弾丸の様に器から飛び出すと、一直線にカティーナへと向かっていき。


「はぶ!」


 カティーナの眉間に直撃。


 思いもよらない苺の強襲にかティーナは椅子ごと後ろへと倒れていく。


 この間のナオの行動も素早かった。


 倒れていくカティーナから目にも止まらぬスピードで危険な手にしたフォークを奪取。しかし咄嗟の行動だったのでナオに出来たのはここまでだった。


 カティーナは無惨にもそのまま床へと倒れていく。そしてひっくり返った拍子にカティーナのスカートは捲れ、哀れお嬢様ははしたなく開脚した体勢で下着をさらす羽目となってしまった。それは物の見事な苺柄。


「うきゅぅぅぅ」


 目を回すお嬢様の下着をまじまじと見ながらナオは苺を一つ頬張ると「流石ですお嬢様」と妙に元気に倒れたカティーナへと駆け寄った。


 結局ナオの発現に関する詰問はお嬢様のかわいらしさにより有耶無耶に終わるのだった。

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