第60話「初めてのカウント」



 僕は『ぼっち』だ。



 しかし、だからと言って、どっかのツンデレポンコツ美少女(笑)とは違い、初めから僕が『ぼっち』だったわけではない。



 当然、僕にも『友達』と呼べるような存在はいた。


 それは小学校でも、中学校でも、ましてや高校生になってすぐの頃にも、そう言えるような存在はいたはずだ。


 しかし、それらの『友達』は皆、僕の前からいなくなってしまう……。


 何故なら、僕には『人との付き合い方』が分からないのだ。


 特に何かをしたという記憶は無い。ただ、僕が『普通』だと思っていることが他人にとっては違う。


 それだけのことだ。


 例えば、一緒に帰ろうと誘われたとして、その日はコンビニで漫画雑誌を読みたかったので正直に言って断ったとする。


 そして、翌日に『一緒に帰ろう』と言うと『なんなのお前?』と言われて『友達』が減る。


 例えば『友達』と連絡先を交換したとして、その相手から連絡が来たら直ぐに返事を返す。


 通知を付けておけばいつ連絡が来ても分かるし『友達』だからなるべく直ぐに返した方がいいと思って一分以内には返事を返す。


 いつ、どんな時、例え深夜だろうと、そうしているうちに『監視でもしているの?』とか言われて一方的に『友達』が減る。


 このほかにも『友達』がいなくなった原因はいろいろとあるのだろう。


 だけど、そのすべての原因を僕は知らない。


 何故なら、彼、彼女はそれを教えてくれるとは限らないからだ。ただ、理由が分からないままに僕の周りからは『友達』が消えていった。


 僕はただ『普通』のことをしているだけなのに何故、彼、彼女らがいなくなるのか理解できない。


 彼、彼女らが僕に何を求めているのか? 何を考えているのかが僕には分からない。


 友達他人の考えていることが分からない。だから、僕は『ぼっち』でいることを選んだ。



 仲の良い人間が離れていくなら、最初っから近寄られない人間ぼっちになればいい。



 礼儀も何も無い人間になればいい。



  常に他人をからかう人間になればいい。



   そんな『嫌な奴』になれば初めから誰も僕には近づかないはずだ。



 そんな『ぼっち』になれば、これ以上『友達』を失うことはないのだから……。



 つまり、僕は他人と関わることから逃げて『ぼっち』になったのだ。



 なのに、そんな僕の前に一人の女の子が現れた。



『この私が話し相手になってあげてもいいのよ……?』



 その女の子は、とても分かりやすい女の子だった。


 そう、他人の考えていることが分からない僕にでも分かるほどの……。



『貴方がこの私の話し相手になることで許してあげてもいいのよ……?』

『……いや、結構です』



 だから、いつも通り僕はその女の子をからかった拒絶したのだ。


 どうせ、彼女も僕の前からいなくなるに決まっている……。


 それが辛くなる前に僕に愛想をつかして欲しい。


 なのに――、



『……えっと、その……ほ、本当に断るの……?』



『歩ぅ~……あ、貴方……絶対に許さないんだからね……』


『歩! 貴方、次にあんなものを私に飲ませたらタダじゃおかないんだからね!?』



 僕がどんなにからかって拒絶しても、彼女がいなくなることは無かった。



 きっと、生粋のドMなんだと思う。



 でも、だからこそ――、



『んん~、もう! 貴方もなかなか素直じゃないわね? んんん~?』



『歩くん、お帰りなさい! 貴方の帰りを待ってたニャン♪』



『ん~、あまぁーい! とっても美味ぴぃわ!』



 彼女なら、僕の前からいなくなることは無いんじゃないかと期待してしまうんだ。



『せ、責任……とと、取りなさいよね!?』



 そして、その女の子好きな子と、一緒のお布団で一夜を過ごすとなれば、健全な男子高校生である僕が我慢なんてできるわけも無く――、








「んん~っ! 歩、気持ちの良い朝ね! やっぱり、朝は最高よ! なんたって、朝はオバケが出ないものね!」



 ――なんてね?


 そんな度胸が『ぼっち臆病者』の僕にあるわけが無く……当然、昨日は一睡もできませんでした。


 ……はい。


 というか、昨晩はマジで何かの拷問かと思ったよ……。


 だって、隣であの『学校一の美少女』とか言われている雫が無防備に『スヤスヤ~♪ ぴぃぴぃ~♪』って、寝ているんだよ!?


 お風呂上がりだから良い匂いはするし、寝返りで肌が触れたり……


 しかも、寝相が思いのほか悪いからパジャマがはだけて胸元がみ、見え!!


 ……うん、あれで手を出さなかった僕はマジで悟りを開けるんじゃないかな?



「じゃあ、雫。僕は役割も終わったし家に帰るね?」


「あら、歩。そんなに慌てて帰ろうとしなくてもいいのよ?

 せっかくだし、ホラーを克服までして一人でお留守番もへっちゃらな、この『学校一の美少女』である私が、みごとに番犬の役割を果たした忠実な下部しもべである歩のために、朝ごはんを作ってあげるから食べていきなさいな♪」



 この女、ホラーを克服したことをいつまでも引っ張るな……。


 この調子だといつまでも引っ張り続けそうなので、近いうちにガチのホラー映画を見させて『ぎゃぴぃ!』と言わせてあげよう。


 あと、僕を番犬という人間以下の下部しもべに仕立て上げたことで、昨日の留守番を雫一人で過ごしたという偽装するのは止めようね?



「雫、それは遠慮しておくよ。朝ごはんを食べてて雫のご両親とバッタリ!

 ――なんてことになったら、シャレにならないからね?」



 ただでさえ、偽りの恋人同士なんてややこしい肩書があるのに、両親に黙って家に泊まったなんてことがバレるのは流石にヤバい……。


 なので、ここはすぐに退散するのが吉である。



「それに、雫もいくら一人の留守番が怖いからと言っても……

 流石に『好きでもない男』を家に泊めるのは、あまり良くないと思うよ?」



 本来であれば、これは昨日のうちに言っておくべき言葉ではあるんだけど……


 それで雫が考え直すと僕が雫の家にお泊りできるチャンスが無くなる可能性もあったので、今言うことにした。


 それに、僕みたいな人間こんな簡単にも家に泊めてしまうのは流石に危険だと思うんだよね。


 まぁ、これが『ぼっち臆病者』の僕だからよかったけど……。



 しかし、僕がそう言うと雫は何か不満げに頬を膨らませながら、一言だけこう答えた。



「……わ、私が好きでもない相手と一緒に寝るような女に見えるのかしら?」


「え……?」



 そして、次の瞬間。僕は雫に唇を奪われた。



「……は? し、雫……さん?」



 は? 雫が……キス? 僕に……? な、何これ!? ゆ、夢じゃないよね!?



「歩、この『キス』はカウントしてあげてもいいわよ♪」


「カウントって……」




『初めてのキスはもっと最高のシチュエーションでないとダメって決めているのよ!

 だから、今回の間接キスは私の中のキスにカウントなんかしないんだからね!?』




 つまり、この『キス』は……現実?



「どうやら、今日は私の『勝ち』みたいね?

 ウフフ……♪」



 そう言って、からかうように笑う雫の笑顔はとても素敵で――、



 その日、僕は初めて雫に『負けた惚れた』のだと実感したのだ。




【あとがき】


 ここまで読んでくれてありがとうございます。この作品はこれで一旦終わりになります。


また【何故か学校一の美少女が休み時間の度に、ぼっちの俺に話しかけてくるんだが?】という作品も掲載してますので、よければそちらも読んでみてください。



【何故か学校一の美少女が休み時間の度に、ぼっちの俺に話しかけてくるんだが?】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884043614/episodes/1177354054884043615



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