第55話「うっかり爆弾発言」
「こ、これは! 別に、歩を疑ったというわけでなくて……そ、そう!
ほんの軽いジョークよ!
ブラックコーヒーに因んだ雫ちゃんのブラックジョークなんだからね!?」
前回のあらすじ、雫が間違えて僕のブラックコーヒーを飲んで自爆した。
せっかく、僕が雫の注文通りにコーラを持ってきたと言うのに、それを疑って僕の方の飲み物を飲むとはなんて仕打ちだろうか?
まったく……今度、雫をからかう時の新しいネタにしよう。
「でも、雫。本当にそのコーヒーは僕が飲まなくてもいいの?」
「し、仕方ないじゃない! だって、私が口を付けてしまったわけだし……
こ、これをそのまま歩に渡したらまた前回同様に歩との『間接キス』になっちゃうじゃないのよ!」
そうなのである。雫は間違って口を付けてしまったブラックコーヒーを飲みたくなければ捨てればいいのに……。
『せっかく、持ってきた飲み物は飲み切らないとお店に失礼でしょう!』
などと、言って自分で飲むと譲らないのだ。
雫は苦いブラックコーヒーが飲めないから、僕が飲もうかと言ったのに『間接キス』になるからとそれを拒否するし……
因みに、コーヒーを取られた分、僕には雫が飲む予定だったコーラが代わりに贈与された。
雫が言うには――、
『私がコーラを飲むのはこのコーヒーを片付けた時よ!
だから、このコーラは炭酸が抜けちゃうから歩にあげるわ!』
とのことらしい。僕は飲み残しのドリンクを捨てるゴミ箱じゃないんだけどなぁ……。
「というか、雫って間接キスは気にしないんじゃなかったの……?」
確か、前にも似たようなことがあった時に『間接キスなんてキスの内にカウントしないわよ!』みたいなことを言ってなかったっけ……?
「あ、あれは……だって、もう歩が口を付けた後の話でしょ!?
確かに、歩が指摘した通り私は『間接キス』なんかにはこだわらない女よ!
でもね? 今回のケースは前提が違うのよ!
そうケースバイケースよ!
今回に限っては私がこのコーヒーに口を付けただけで、歩はまだ口もつけてはしないでしょう?
つまりは『間接キス未遂状態』なの!
なのに、わざわざそれを気にしないからと言ってドリンクを交換して再び『間接キス』を許すほど『学校一の美少女』である私の『間接キス』は安くは無いのよ!
ハッ! 歩ってばもしかして……
そう言って、私が『間接キス』に肝要なのをいいことに再び私が口を付けたドリンクを手に入れてその間接キスを飢えた獣のごとく貪るつもりだったのね!?
なんて、いじらしいフレンズなのかしら!? 歩、恥を知りなさい!
いくら、私が心優しいフレンズだとしても、そのような策略には乗らないんだからね!?
ふぅ、そういうわけでこのコーヒーは私が責任を持って飲み切らせてもら――むぐぅ!?
やっぱり、苦っピィイイイっ!!」
うーん、もしかして、僕は雫がこのコーヒーを飲み切るまで帰れなかったりするのだろうか?
だとしたら、僕が家に帰れるのはかなり遅くなりそうだな……。とりあえず、妹に今日は帰り遅くなるってメールをしておくか。
「ねぇ、雫。もし、そのコーヒーを飲むのに時間がかかりそうなら、この喫茶店で夕食も済ませちゃった方が良いかな?」
「はぁ? 歩、貴方は一体何を言っているのかしら?
まさか、この私がこんな一杯のブラックコーヒーごとき、貴重な時間を消費する女だとでも思っているのかしら?
こんなの『学校一の美少女』で、苦手なホラーをも克服した完璧美少女の雫ちゃんにかかれば、おちゃのこさいさいなんだからね!?
……ハッ! それとも、歩ってば夕食をここで食べるなんて言って、本当は――、
『もうしばらく、雫と一緒にいたいからディナーでもどうかな?』
――って、誘っているつもりじゃないでしょうね!?
はぁーっ! 嫌だわ! これだから男ってば素直じゃないのよね?
ま、まったく……わ、私ともう少し一緒にいたいのなら素直にそう言えばいいのよ! なのに、そんな遠回しにディナーに誘うだなんて、本当に歩はヘタレぼっちなんだから!
だけど、歩。残念だったわね?
貴方のその気持ちは嬉しいけど、後数分もしたら、私はこのブラックコーヒーを飲み干してしうわ!
だ、だけど……?
歩がどーしても、私と一緒にディナーまで一緒にいたいというのなら?
まぁ、それは歩の気持ちを考慮して、このコーヒーをゆっくりチビチビと飲むこともやぶさかでは無いわね……。
べ、別に! 本当はこのコーヒーを一気に飲めないわけでは無いのよ!?
あ、あくまで、歩がもう少し一緒にいたいと言うから、一気に飲み干す必要がないだけで……
だ、だから、勘違いしないでよね!?」
めんどくぇ……もう、どうでもいいから、さっさと飲んでくれないかな?
ほら、イッキ、イッキ~♪
パラリラ~♪ パラリラ~♪ ← 着信音
「あら、お母さんから電話だわ。歩、ゴメンなさい。少し電話に出るわね」
「え、あ、うん……どうぞ」
こう言う所で僕に気遣って一言断るあたり、雫って変なプライドを張らないと普通に良い子なんだよなぁ……。
とりあえず、雫が電話してる間は静かにコーラでも飲んでおくか……。
「…………」 ゴクリ……
しかし、お母さんか……。雫のお母さんってどんな人なんだろう?
やっぱり、親子だから巨乳で美人なのかな?
「あ! もしもし、ママ?」
「ブゥーーーーッ!」
……マ、ママ!? え、ちょっと……雫さん?
貴方さっきは『お母さんから電話だわ』って言ってましたよね……?
「え、今の音? あ……な、何でも無いわ! えぇ……」
や、ヤバい……。今の僕が噴き出した所為で、雫が、
『ちょっと、歩! 静かにしなさいよ! 少し黙っていることもできないのかしら!?』
みたいな目で睨んで来ている……。
いや、でも……あれは絶対に噴き出すよね?
「そ、そんなことより! 何の用かしら!?
……え? そ、そうなのね……。
分かったわ。うん、パパもなのね。ええ、大丈夫よ。
任せて、ママ! も、もう、子供じゃないんだからね!?
ええ……ママ、じゃあね。うん……」
今の電話を聞いた限り、雫ってお父さんも『パパ』呼びなのか……。
てか、なんか電話の様子がおかしかったけど、何かあったのかな?
「ねぇ、雫。電話の様子がおかしかったけど……
何かあったの?」
「ふぇ!? そ、そんな……たた、大したことじゃないのよ?
ただ……今日、私のママ――じゃなくて『お母さん』ね!」
いや……今更、取り繕っても無駄だからね?
さっきの電話で『ママ』呼びしているの聞いちゃっているからね?
なんなら、お父さんまで『パパ』呼びなのも知っているからね……?
「と、とにかに! ウチの両親って共働きなんだけど、お……『お母さん』が!
そ、そのぉ~、今日は家に帰って来れないらしくてね? それで、パ――じゃんくて『お父さん』も!
仕事で帰れないから、今日は一人で留守番になるけど大丈夫かしら? みたいな電話よ……。
べ、別に! 一人で留守番するのが怖いとかじゃ全然無いんだからね!?
だって、ウチの
その証拠に……ほら! 私はいつでも家の鍵を持ち歩いているのよ!
つまり、鍵っ子って奴なのよ! それに、昔は
そんなの、
……うん、雫ってば動揺を隠しきれないのか、さっきから『ママ』呼びと『パパ』呼びのうっかりが暴発しまくっているからね?
分かったから、一度落ち着こうか?
「で、でも……古来からの言い伝えによれば、お、お化けとか幽霊なんかの話をすると本物のお化けや幽霊が近寄って来るとかも言うわよね?
私ってそういう迷信とかは信用しているわけでは無いのだけど……備えていれば嬉しいな的なことわざがあるでしょう?」
うん『備えていれば嬉しいな』はただの感想だよね?
「あれに習って一人で留守番をする時はなるべく超B級とは言え『ホラー』と名の付くジャンルは読まない、見ないようにしているのよ……。
でも、今日は運の悪いことにホラー映画を見ちゃったわけで……」
うん、超B級ホラー映画だったけどね?
「ほ、ほら……あの映画にピエロ姿の爆弾魔とかが出て来たじゃない?
だ、だから……もしかしたら、私の留守番中に、そのピエロ姿の爆弾魔が現れる可能性だってあると思うのよ!」
うん、現れないと思うよ?
雫の言う通り、ピエロ姿の爆弾魔が現れたとして……もはや、それってホラーじゃなくて事件だよね?
しかし、今日見た映画はガチホラーじゃなくて超B級ホラー映画だったわけだけど、雫もそれを見た後に一人で留守番となるとやっぱり、怖いんだろうな……。
「だ、だから、歩……今晩ウチに泊まりなさい!」
「……はぁ?」
えーと……
とりあえず、今日は帰れないと妹に連絡した方がいいのかな……?
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