第54話「君の自爆に乾杯」



「歩、どうかしら! これで、私が『怖がり』を克服したということがここに証明されと言っても過言では無いわね!」



 前回のあらすじ『NP ~ノッポ/それが伸びたら終わり~』はクソだった。



「ねぇ、雫。僕はドリンクバーを頼むけど、雫も頼むかな?

 あ、もちろん雫の好きな『シロヌワール』も頼むよね?」



 結論から言おう。僕達が見た映画『NP ~ノッポ/それが伸びたら終わり~』は原作小説はちゃんとしたガチホラー小説だった。


 しかし、映画化を手掛けた監督が『超B級ホラー映画』を作るので有名な人だったらしく……


 映画版『NP ~ノッポ/それが伸びたら終わり~』は原作小説には無いバトル展開などが追加されてクソが付くほどの『超B級ホラー映画』になり果てていたのだ。



「ちょっと、歩! ちゃんと私の話を聞いているのかしら?

 この『学校一の美少女』でホラーも難なく見ることができる最強可愛いの雫様の話を上の空で聞くなんて万死に値するんだからね!?

 あ! もちろん、ドリンクバーは頼むに決まっているわよ。それと、私の好きな『シロヌワール』も忘れない所は評価してもいいわね!

 もし、歩がしたいと言うのなら、そのまま私のドリンクを持ってくる権利を上げなくも無いわ!

 もちろん、歩なら、私が何を飲みたいか言わなくても分かるわよね?」



 その結果『超B級ホラー映画』をガチホラー映画だと思い込んでみた雫は……


『何よ? 全然、怖くないじゃない! つまり、私はホラーを克服したということね!』


 などと愚かな勘違いをし、雫の『ホラー克服記念』として、いつもの喫茶店に来た次第である。



「分かったよ……。今日は雫のホラー克服記念だし、僕が雫のドリンクも持ってくるよ。

 雫の飲み物は『コーラ』でいいんだよね?」


「もちのロンよ! ムフフン!

 どうやら、ようやく歩もこの『学校一の美少女』である私に使える幸せというのが分かってきたみたいね♪

 もし、歩がこの私に仕え続けたいというのなら向う三十年くらいは召使いとして仕えさせてもいいんだからね?

 さぁ、歩! その調子で精進し続けなさい!」



 どうしよう……『コーラ』じゃなくて『コーヒー』を持って来てやろうかな?


 しかし、よくよく思い返してみれば……僕は今までこのドリンクバーで事あるごとに雫の使いっ走りとして、雫のドリンクを持ってくるように言われてきたが、ちゃんと注文された通りのドリンクを持ってきた試しが無いような気がする……。


 なので、もしここでまた雫の注文と違うドリンクを持ってくるようなことがあれば、僕が雫に愛想をつかされてしまう可能性だってあるんじゃなかろうか?


 雫は『ぼっち』の僕にとっては、唯一と言っていいほどの『友達おもちゃ』だし、流石にそれは少しだけ悲しかな……。


 なので、今回はちゃんと雫の注文したドリンクを持ってきてあげることにした。


 因みに、僕の飲み物はいつも通りの『ブラックコーヒー』だ。



「はい、雫。こっちが雫の注文した『コーラ』だよ」


「ムフフン! 歩! この私がそう何回も騙されると思ったら、大間違いなんだからね!

 そうやって、右手で『コーラ』と言って出しながら、中身はいつもの『ブラックコーヒー』なんでしょう!

 そして、私が歩に注文した本当の『コーラ』は歩が自分用に持ってきたと見せかけて、そっちの左手に持っているグラスに注がれた黒い飲み物が――、


 そう、本当の私が歩に注文した『コーラ』に違いないわ!

 だから、歩! そっちの左手に持った飲み物を私によこしなさい!」


「え、あ! ちょっと、雫!? そっちは……」



 えっと……今回は本当にこっちの差し出した方が『コーラ』なんだけど……


 まぁ、面白いから、止めないでいいか。



「フハーハッハッハッ! 歩、自分の嘘が見破られたからって今更誤魔化そうとしても遅いわよ!

 既にホラーを克服した『超絶究極完全態』の『学校一の美少女』である私には歩程度の嘘には騙されないんだからね!

 プークスクスクス♪

 歩ってば、まさか自分の嘘がこうも簡単に見破られるとは思っていなかったのか、なんて間抜けな表情をしているのかしら?

 あぁ、なんて清々しい気持ちなのかしら! 勝利の瞬間というのはここまで気分が高揚してしまう物なのね♪


 まさに『敗北を知りたい』って気持ちだわ!


 ふぅ、んか一気にしゃべったら喉が渇いてしまったわね……。

 ウフフ、ここは一旦、歩から勝ち取った勝利の美酒ならぬ『勝利の美少女コーラ』で乾杯でもしましょうか♪

 じゃあ、かんぱ――って! 苦っピィイイイっ!?」



 うん、なんて言うか……。


 そこまで綺麗に自爆できる雫に、むしろ完敗だよね。


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