第50話「混じり気の無い黒さ」


「どぅだぁわって! あゆむがえばぁおおをびだぁああいっでいゆぅうがらぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」



 前回のあらすじ、雫にコメディー映画と偽って超怖いサスペンスホラー映画を見せた。


 やったぜ!



「雫、本当にゴメンって……

 まさか、あんな嘘で騙せるとは思ってなかったんだよ。

 あと、ここはお店の中だから、もう少し声のボリュームを落とさないと周りの迷惑になるからね?」



 因みに、今は涙でぐちゃぐちゃになった『学校一の美少女』を落ち着かせるため、近くにあったファミレスに雫を連れて来ているのだが……。


 さっきから、雫がこの調子で泣き止まないため、冴えない見た目の僕が『学校一の美少女』である雫を泣かせているように思われているのか、何故か周りからもの凄く冷たい非難の視線が僕に襲い掛かっている。


 まったく……僕が雫に何をしたっていうのだろうか?



「歩の嘘つき!

 バカ! おバカ! 大バカ! 大嘘つきのアンポンタン!

 大体、あの映画の何を見れば『笑顔』になるって言うのよ!?

 ただの頭のおかしい殺人鬼がピエロの恰好をして笑顔で人を殺しに来るサスペンスホラー映画じゃない!

 もう、歩の言葉なんか一生信用してあげないんだからね!?」



 そう言われても……僕的には、映画が始まった序盤で騙されたと知った雫の表情が絶望に染まっていく過程を真横で見れて、


 十分に、僕が『笑顔』になれたけどね?


 しかし、ここまで雫に泣かれてしまうと僕にも罪悪感というものがあるわけで……


 うん、確かに今回は少しやりすぎたかもしれない……。ちゃんと、反省しよう。


 だけど、反省するのはいいけど、流石にここまで怒った雫をどうやってなだめようか? 


 うーん、何か適当に甘いものを奢ったら許してくれないかな?



「雫、これで許してくれなんて都合のいいことは言えないけど……お詫びに何か奢るから、何でも好きなものを食べてよ。

 ほら、雫の好きなシロヌワールもあるよ?」



 ――って、いくら雫でもそこまで甘いわけないよね?



「シロヌワール……たべりゅ……」



 ――と思ったら、めちゃくちゃ甘かった。


 甘いものだけに……。



「べ、別に! これで歩のことを許してあげるわけじゃないんだからね!?

 こ、これは……そう! 慰謝料のようなものなのよ!

 歩は幾度も重ねた『嘘』によって、この純真無垢な『学校一の美少女』である私の心に多大な精神的ショックを与えたんだから、慰謝料としてこれくらいはしてもらって当然なんだから!


 むしろ、本来は『シロヌワール』一個分では慰謝料としては全然足りないくらいなんだからね!?


 でも、そこはガンジーも尻尾を撒いて逃げ出すほど慈悲深い心を持っているといわれる私でしょう?

 つまり、ギンギン銀河よりも広い心を持って『シロヌワール』で手を打って許してあげようってことなのよ!

 さぁ、歩! 分かったら、追加でドリンクバーを頼むのよ! そして、この私の『コーラ』を持ってくる名誉を貴方にあげるわ♪

 もちろん、ドリンクバーの代金も歩のおごりなんだからね!?」



 この女、ガンジーも尻尾を撒いて逃げ出すほど慈悲深い心を持っているとか言っていた癖に、さりげなくドリンクバーまでも僕の奢りにしやがった。


 まぁ、いいや……。今回に関しては僕が悪いわけだしね。



「じゃあ、僕はドリンクバーの飲み物を取って来るね?」


「私はその間に、シロヌワールを注文して運ばれてくるのを楽しみに待っているわね♪

 あ、歩! もちろん、前みたいに私のドリンクにコーヒーをぶち込むなんてマネをしたら、今度こそ本当に正真正銘、仏の顔ならぬ、雫ちゃんの顔も三度までと言うように……

 何が何でも許してあげないんだから、覚悟しなさいよね!?」


「うん、分かったよ。気を付けるね」



 まったく、雫ってばいくら何でも僕のことを疑い過ぎじゃないのかな? 僕が雫にそんなことするわけないじゃないか……。


 さて、ドリンクバーに来たはいいけど……あれ?


 雫の飲み物って何だっけ……?


 うーん、確か『コーヒーをぶち込む』のがどうたら言ってたような……。


 よし! とりあえず『コーヒー』を持っていけばいいか!


 何か『何も混ぜるな!』的なことを言っていたような気がするし、ミルクも砂糖も入れない『ブラックコーヒー』がいいかな?


 ついでに、僕の飲み物は……うん『コーラ』でいいか!



「雫、お待たせ。はい、ちゃんと言われた通り『何も混ぜて無い』よ」


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