第45話「交渉」 


「もう! 歩ったら、傘があるのなら最初からそう言いなさいよね?

 そうじゃなきゃ、いつまでも傘が無い前提で話していた私がバカみたいじゃないのよ!」



 前回のあらすじ、どうやら雫は僕も『傘を忘れた愚か者の仲間』だと思っていたようだ。



「でも、これでようやくこの土砂降りの雨に悩まされること無く帰ることができるわね♪

 さぁ、歩! もう下校時間が迫っているから帰るわよ?

 フフン……歩、喜びなさい!

 この『学校一の美少女』である私の隣を歩くという名誉を貴方にあげるわ! そ・の・か・わ・り♪

 歩は私に付きそう熟練の従者のごとき姿勢で付き添いながら傘で私が濡れないように配慮するのよ?

 もちろん、この私は『学校一の美少女』だから、ちょっとの雨に濡れた程度じゃ私の魅力は落ちたりしないけど……むしろ、雨も滴る『学校一の美少女』とも噂されかねないわね!

 だけど、この私の美しさはたかが『雨』程度でも乱してはいけないのよ!


 そう、何故なら私は『学校一の美少女』だから!


 そんな私はまるで超一流の美術館に飾られる絵画かいがのように……!

  または、高級ハイブランドのお店に堂々と展示される超高額商品のように!    さらには、田舎に住むおじいちゃんやおばあちゃんが久々に会いに来た孫を可愛がるみたいに……

 そんな感じで超超、超――、


 大事にしなきゃいけない存在なのよ!」



 つまり、要約すると『濡れるのが嫌だから、僕の傘に入れて欲しい』ということらしい。



「なるほど、雫の言いたいことは分かったよ」


「そう、なら直ぐに帰りましょう♪

 これ以上ここにいても雨がひどくなるだけで、何も価値を生み出さない時間が過ぎるだけだわ」



 ついさっきまでは


『も、もう少しいれば雨が急に止む可能性だってあるかもしれないわ!』


 とか


『この時間にどんな価値を生み出すかは私達の考え次第だとも思うのよ!』


 なんて言っていた女とは思えないセリフである。


 しかし、雫は『僕が傘を持っている』と分かっただけでどうしてここまで安心しきっているのだろうか……?


 だって――、



「ねぇ、雫。別に僕が雫と一緒に帰るのは問題無いんだけどさ……」


「何よ? この『学校一の美少女』である私と一緒に帰れるという名誉にあやかれるというに何か不満がるとでも言うのかしら?

 もし、あると言うのなら言ってみなさい!」


「いや、不満と言うほどじゃないんだけどね?

 別に、僕が雫を自分の傘に入れてあげなきゃいけない理由が何処にあるのかな?」



 ――そう、こんな面白い状況で僕が雫をからかわないでどうするのさ?



「……ぺ? あ、歩? 貴方は何を言っているのかしら……」


「だって、雫は現に傘が無くて困っているわけだよね?

 そして、傘を持っているのは僕だけと……


 でも、考えてみて欲しいんだよ。


 この状況で僕と雫が一つの傘で帰るとしたら一つの傘に二人の人間が雨に濡れないように帰るのは厳しいと思うんだよね。

 そうなると、必然的にどちらか、または両方とも少し濡れることになるよね?

 だけど、僕が困っている雫を見捨てて一人で帰ればそんな心配はなくなるわけで……」


「あ、歩……ちょっと、待ちなさい!

 まさか、貴方はこの『学校一の美少女』である私を見捨てて一人で……


『ボッチボッチ♪ チャプチャプ♪ ランランルー♪』


 ――と、帰ろうと言うのかしら!?

 そ、そんなの認めないんだからね!?

 そもそも、貴方は仮と言え、この私の『彼氏(仮)』なのよ!

 一体、雨の日に傘を忘れて困っている可愛い『学校一の美少女』(ここ重要)の彼女を置いて帰る彼氏が何処にいるって言うのよ!?」



 はい、ここにいます!



「いやいや、雫。早とちりはしないで欲しいなぁ~。

 別に、僕はまだ雫をおいて帰るなんて言ってないじゃないか?」


「じゃ、じゃあ……どういうことよ?」


「仮にも僕は雫のために自分が雨に濡れるリスクを冒そうとしているわけだからさ……

 それに見合う『見返り』が必要だと思うんだよね?」


「み、見返りですって……」


「うん、つまり……


 雫は僕にどんな『見返り』をくれるのかな?」


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