第39話「妥協点」



「恋人のフリをするなら『おっぱい』を触ってもいいんじゃないかな?」



 今日も今日とていつもの放課後、


 なんやかんやで『恋人(仮)』となった僕は雫にそのような画期的かつ斬新なアイディーア! を進言してみた。



「ばっばばば、バッカじゃないの!?

 歩の変態! スケべ!

 か、彼氏になったからってそんないきなり……それに!

 そもそも、歩は彼氏と言ってもあくまで仮の彼氏なんだからそんなエッチィ目的で私の体に触れるのはダメなんだからね!」



 確かに雫の言うことは一理あるかもしれない……。


 しかし、それはあくまで雫個人の見解であり僕の意思としては、


『『いや、ワンチャンあるんじゃない? ここで諦めたら試合終了だよ?』』


 ――と、心の中の天使と悪魔が応援してくれているのだ。



「でも、雫。少し真面目に考えてくれないかな……?

 確かに、僕達は怪盗のごとく世間を欺くための『仮の恋人』だ。

 でも、そのためには完璧に周りを騙しきれるほど『恋人』として振舞う必要があると思うんだよ!

 でも、それじゃあ……

 今の僕達が周りの人間を欺けるほどの『偽の恋人』を演じきれていると思うかい?」


「そ、それは……確かに演じきれているとは言えないわ……」


「だよね? だって、雫は回りに誰かいると恥かしくて恋人の演技ができないんだもんね?

 でも、それだと……僕達の演技は不十分だと思うんだ」


「そ、そうね……。

 でも、勘違いしないで頂戴!

 わ、私が恥かしくなって演技が出来なくなるのは、歩の彼女になってデレデレしているみっともない自分の姿を他人に見られたくないなんて甘っちょろい感情なんかじゃなくて……そう!

 歩程度の男に『学校一の美少女』である私が『彼女のフリをする』という状況が屈辱過ぎて生きているのも恥ずかしくなるから、演技が出来なくなるだけなんだからね!

 だ、だから……

決して、私が歩のことを好きだなんて勘違いだけは身の程をわきまえて絶対にしないでくれるかしら!」


「そんなの言われなくても分かっているよ……」



 だから、せめてこのチャンスを利用して、雫のおっぱいの一つかみでも揉めないかと考えているんじゃないか?



「でも、だからこそ、僕達はいざって時に『恋人のフリ』が出来るように『練習』が必要だと思うんだよ。

 ほら、学校でだっていざという時のために避難訓練はするでしょう?

 それと同じで僕達も『練習』をするべきだと思うんだ」


「れんしゅう……?」


「そう! だって、いつまでも人がいるから恥ずかしくて『恋人のフリ』ができないじゃ僕が雫のために仮の彼氏になる意味がないじゃないか?

 だから、少しずつでも雫が『恥ずかしい』と思うことを乗り越えて、雫が我慢してでも『恋人のフリ』が出来るように『練習』が必要だと思うんだよ!

 別に『おっぱいを触る』って言ったのは言葉のあやで、雫が恥ずかしいと思うことなら『手を繋ぐ』や『見詰め合う』とか『膝枕』でもいいんだよ?」


「そ、それなら……でも!

 む、胸を触るのだけはまだ絶対にダメなんだからね!?」


「分かった。じゃあ『おっぱいを触る』のがダメなら……『胸を揉む』とかならどうかな?」


「それって言い方を変えただけで、何も変わらないわよね!?」



 チッ、気付いたか……



「じゃあ『おっぱいを押し付ける』!」


「ダメに決まっているでしょう!」


「なら『おっぱいを見せる』!」


「『おっぱい』からはなれなさいよ!」


「もちろん、下着は付けていいから!」


「あたりまえ――って、それでも嫌に決まっているでしょう!」



 チッ、惜しい……



「はぁ、分かった……。なら『おっぱい』は無しでいいよ」


「何で歩が妥協したみたいになるのかしら!?

 もっと、普通なのがあるでしょう! さっき、歩が言ったみたいな『手を繋ぐ』や『見詰め合う』とか!」


「え……あれならいいの?」


「あ、当たり前でしょう……

 むしろ、何でさっきのが大丈夫だと思ったのよ!?」


「じゃあ、さっき言った『膝枕』でお願いします!」


「それでいいのよ……。もう、歩ってばエッチィことばっかり――、

 ……ん?」



 よし、今度は引っかかったね♪


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