第38話「彼女の気持ち」



 あの時の事を思い出すと、今でもなんでそんなことを言ったのかと自分を責めたくなる。



『わ、私を歩の彼女にしてください! お願いします!』



 ヌガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!?!?



「何で何で何で……何であんなまんま告白みたいなセリフを言っちゃってるのよッ!!!

 私の……ブァアアカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



 ちょっと、訂正するわ……。


 私は現在進行形で自分を責め続けていた。



「だってだってだって!

  こ、こんな!

   そんな……あんな!

 そう、あんなセリフ誰が聞いてもただの『告白』じゃないのよ!

 まったく、歩ってば何が……


『好きじゃなくて大嫌いって言えば、どう考えても告白のセリフには聞こえないよね?』


 ――よ!

 そもそも、歩の勢いに釣られて、そ、そのぉ……思わず『大好き』なんて言っちゃったけど……

 ハン! この『学校一の美少女』である私が歩のごとき、スーパーのもやし売場に行けば一パック二十八円で売っていそうな『ぼっち』の男なんかに興味を……

 ま、まま、ましてや好意なんて持つわけがないでしょう! 

 そ、それは~?

 他の男共に比べたら少しは話も分かるし、一緒にいて退屈もしないし?

 それに、嫌なこともあるけど……逆に今度は何をしてくれるのかドキドキすることも無くはないわよぉ……?

 でもね!

 だからといって、この私はその程度のことで簡単にチョロ~ン☆と落とされるような接待設定のYレベルの沼みたく、やっすぅ~い女じゃないのよ!」



 そうよ!

  そうだわ!

   そうに決まっているもん!


 まぁ、それこそ……?


 歩が私の尊さと美しさを真に理解し、それでも『従者でいいからおそばに置いてください!』と頭を垂れるのであれば?


 まぁ……


 ペットの代わりとして、歩の生涯が終るまでこき使ってあげなくもないわよ? 


 でもね。私が告白したみたいなのはダメ!


 そう、絶対にダメなのよ!


 だって、恋愛……って、だからちがぁーーう!


 これは、えーと、えーと……恋愛じゃなくて……そう! 契約よ!


 私と歩が今回行ったのはあくまでもただの『恋人のフリ』をするという契約よ!

 つまり、これに大事なのはどちらが主導権を取るか? なのよ!

 契約と言うのは契約を『してもらう側』と『してあげる側』に分かれるの!

 そして、それは互いのパワーバランスに直結するわ!

 こ、これは……あくまで例え! 例えの話だけど……例えば告白して付き合ったカップルがいるとするじゃない?

 その場合、お互いの主導権は『告白をした方』が弱くなるのよ!

 だって、それは告白を『した人が付き合ってもらっている』ということになるの!

 よく、昔から『恋は惚れた方が負けなのよ!』的なことわざがあるでしょう? 

 

 つまり、それよ!



「だからこそ、私は歩にお願いされて『仕方なく、歩を恋人(仮)に選んであげた女』でなければいけないのよ!」



 うぅ~、なのに今回は歩の口車にまんまと乗せられて私の方から告白させられちゃったわ……。


 まったく! 歩ってば、私に告白して『恋人(あくまで偽なんだからね!)』になれたからって、あんな皆がいる教室でさも『コイツ、俺の女だZE!』みたいな口ぶりで話しかけてくるなんて……


 あれじゃあ、まるで私が歩にメロメロみたいに思われるじゃないのよ!


 まぁ、その所為で変にテンパッちゃって歩のことを他の男子ゴミにあたるような接し方をしちゃったわけだけど……


 歩、怒ってないわよね?


 歩ってば、あれで意外と『ぼっち』だからメンタル弱いところあるのよね……。

 でも、歩ってばいつもは教室で話しかけないで放課後にしか話しかけないのに、何で今日に限って教室で話しかけてきたのかしら……?

 やっぱり、私と付き合えたのが嬉しかったりして……えへへ♪

 ムフフン! それはあるわね! ええ、大いにありえる可能性だわ!


 だって、私は『学校一の美少女』ですもの!


 あれ……そうなると、この状況は――もしかして、全て歩の策略!?

 ええ、今考えたらそうに違いないわ!

 だって、よくよく考えたらこの私があんな歩みたいな男に告白なんてありえないもの!

 あの男、口だけは良く回るから、この私を上手く誘導してわざと私に告白させたんだわ!


 でも、それって裏を返せば自分で告白する勇気がなかったから、私にわざと告白させたってことじゃないかしら……?


 ええ、そうね! そうに違いないわ!



「もぉ~、歩ってば……そうならそうと言えばいいのに~♪」



 でも、そう考えたら全てに納得が言ったわね! つまり、私は歩なんかに惚れてなどいないわ!

 むしろ、逆に歩がこの私にメロメロなのよ!


 ムフフン! 美少女って、罪なのね……?


 まぁ、歩には今までいろいろやられたけど……流石の私も今回は歩に一杯食わされたって感じかしら?

 でも、今までの戦績なら私が歩にやられたのと、私が歩を不覚にもメロメロにした回数で言えば私の方が勝率八割強だと思うのよね……。


 うん、まだ私の方がリードしているわ!



「ムフゥー! いろいろ、考えて頭がスッキリしたわね!

 やっぱり、一人で考え事をするにはトイレが一番ね!」



 って、ヤダ! ずっと考え込んでいたらもうこんな時間じゃない!?


 歩……今日も図書室に来てくれるかしら?


 でも、朝あんなキツイこと言っちゃったし来てくれないかも……そうだわ!

 もし来ていたら、誰もいない図書室くらいなら『恋人のフリ』くらいはしてあげてもいいわね♪

 例え、歩に言いくるめられて告白させられたわけだけど、建前上は私が『恋人役』をお願いしたことだし?


 ここは歩の考えにわざと……ええ、わざと乗せられてあげるわ!


 それに、図書室なら私達二人だから誰にも見られないで『恋人ごっこ』――じゃなくて!


 こ……『恋人のフリ』! そう、恋人のフリができるものね♪



「ムフーン! そうと決まれば……歩、待ってなさい♪」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る