第37話「残念な思考回路の持ち主」



「歩~! さぁ、喜びなさい! この『学校一の美少女』でありながら、貴方の可愛くも美しい……ご自慢の『彼女』である私が来てあげたわよ!」



 前回のあらすじ、雫のニセモノが現れた。



「だ、誰だ貴様ーっ!?!?

 僕の大切な玩具を何処にやったー!?」


「ピィ!? あ、歩……何を言っているの?

 私よ……貴方の彼女の『雫』よ?

 まさか、私のことを忘れたわけじゃないわよね!?」



 何ィ~? これが、雫だと……?


 この、まるで見せ掛けだけじゃない本物の美少女でありながら、僕の理想を描いて具現化させたような容姿と仕草をするアップグレード版雫みたいなのが、いつもの『学校一のポンコツ美少女』だと?



「う、嘘だ! お、お前が雫だなんて……僕は信じないからな!」


「何でよ!? 一体、私の何が私だと信じられないって言うのよ!?」



 何処が信じられないかって……? そんなの全部に決まっているだろうが!


 そもそも、僕は今朝正真正銘、本物の雫に気安く話しかけてゴミを見るような冷たい目であしらわれたんだぞ……?



「教室であれだけ僕に冷たい態度を取った雫が……

 こんな笑顔で僕に話しかけるわけがない!」


「なんか、そこら辺の書店で売っていそうな売れないラノベのタイトルみたいね……。

 ――って、あ!

 も、もしかして……

 歩ってば、今朝の私の態度に起こっているの?」



 怒っているかだって?


 そもそも、あんな対応をされたら、フィールド魔法『自分の教室』の効果で弱体化した『ぼっち』のメンタルなんかいともたやすく粉砕できるからね?



「え、今朝のことを知っていると言うことは……

 もしかして、本当に雫なの?」


「フ、フン! 私みたいな『学校一の美少女』が二人もいたら、世界は私というワンピース(財宝)の取り合いでハルマゲドンが起きていたでしょうね!」



 なるほど……このいかにもバカっぽい喋り口はいかにも雫本人だな。



「なんだ。本当に雫だったのか……。

 じゃあ、なんであんな入り方して来たのさ?

 まるで、雫の偽者が恋人のフリをして僕の命を狙いに来たのかと思っちゃったよ……」


「何で私の偽者が歩なんかの命を狙うのよ……。

 あ、あれは――ほら、昨日のこと覚えているでしょう……?」


「それって……『告白』のこと?」


「バッ! こ、告白って……確かにそうだけど、そうではないでしょう!

 あれはあくまで『仮の恋人』になる『お願い』なんだからね!

 く、くれぐれも……歩みたいなただの一般庶民である『ぼっち』が!

 この『学校一の美少女』である私と本当の恋人になったと勘違いしないでよね!?」



 あ、やっぱり昨日のあれは、僕の勘違いでもなく現実だったのか……。



「わ、分かっているよ……。

 でも、それがなんであの図書室の入り方に関係あるのさ?」


「フフン! 歩ってばそんなことも分からないの?

 まったく……歩ってば本当に残念な思考回路しか持ち合わせていないのね……。

 いいわ!

 歩程度の人間にはこの私の思慮深い考えは到底理解できないものだと思うし、この私が残念な歩のために、わざわざご説明してあげるわ!」



 残念な思考回路の持ち主で悪ぅござんしたね……。



「いい? 私と歩は『嘘』だとしても一応は『恋人』と言う関係になったわ!

 その目的は決して私の恋愛感情なんてバカらしいものではなく!

 私に彼氏が出来る事によって、他の男子から言い寄られなくなるという効果を狙ってのことよ! 

 歩、ここまではいいかしら?」


「うん」



 これは、僕もそう思っていたからな。


 まぁ、今朝の事件でその幻想をぶち殺されたわけだけどね……?



「でもね……。残念なことに……

 いや、歩にとっては朗報なのかしら?

 でも、私取っては悲報といえる重大な欠点があったの!

 それは……私が歩の『恋人』として演技をしなければいけないことよ!」



 そりゃね。だって、僕が彼氏だと回りに見せ付けなければ、誰も雫に彼氏(偽)ができたとは思えないわけだし……。



「どう! ここまで説明したらさっきの行動も理解できたかしら!」


「いいや、まったく」


「何でよ! もう、ここまで話したんなら察しなさいよね!?

 つまり……私が図書室に入ってきた時のあれは『私と歩が付き合っている』のを周りに見せ付ける演技よ!」



 ほう、なるほど……確かにそれなら納得はできる。


 だけど――、



「ねぇ、雫……。一つ質問していいかな?」


「何よ?」


「今……図書室って僕達二人しかいないよね?

 この状況で、恋人のフリをしても誰も見てないと思うんだけど……

 そもそも、それなら今朝、僕が雫に話しかけた時に恋人のフリをするのが一番効果的だったと思うんだけど?

 どうして、あの時は僕を冷たくあしらったのかな?」


「――ッ!?

 そ、それは……」



 すると、雫はモジモジと恥かしそうに目を泳がせながら、こう呟いた。



「だって、他の人がいる前で『恋人のフリ』なんて恥かしいじゃない……」



 つまり、雫は僕と『二人っきりの状況』でしか『恋人のフリ』ができないということらしい。


 なるほど……


 先生ー! この設定、なんか重大なバグがある気がしまーす!


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