第23話「『学校一の美少女コック』雫ちゃん!」
「歩、今日も『学校一の美少女』である私の手作り弁当が食べられるのだから、この世の全ての食材と母なる大地と『学校一の美少女』の私に感謝しなさい!」
今日も今日とていつもの昼休み、図書室に来た僕を迎えたのは雫のそんなセリフだった。
「はいはい……それで、雫。今日のお弁当のメニューは何かな?」
「歩ってば、せっかく『学校一の美少女』の私が作ったお弁当が食べられるって言うのに、その態度はありがたみが少ないんじゃないかしら?
もし、これが他の男子なら、私がお弁当を作ってあげると言う事実だけで、それは長年雨乞いした上に降り注いだ豪雨のように涙をちょちょぎらせながら神に感謝するかのような反応をとってもおかしくないのよ?
それなのに、歩ってばまるで熟年の夫婦にある仕事帰りの夫みたいな――って……!
だだだ、誰が夫婦よ!?
歩ってば、この私がお弁当を毎日作ってあげているからって勘違いしてんじゃないわよ!
べ、別に……?
これは貴方が好きで作ってきているわけじゃなくて……
わ、私の料理の腕を証明するつ・い・でに!
たとえ、相手が『ぼっち』の歩だとしても、一緒にお昼を食べれたら一人よりはマシだからという理由であって……
つまり、私がお情けで歩をご飯に誘ってあげているだけなんだからね!」
「……はいはい」
一体、雫は何と戦っているのだろう……?
それに、雫が毎日僕にお弁当を作ってきているのも、好意と言うより嫌がらせに近いちゃんとした『理由』があるよね?
そして、僕は雫が僕のために作ってくれたお弁当箱の蓋を開けた。
「おぉ……今日のメニューは和風おろしハンバーグとほうれん草のお浸しかな……?」
「フフン! どうよ♪
歩が『大根』と『ほうれん草』が嫌いだっていうから、大根は食べやすいようにミニハンバーグの上に乗せて和風おろしポン酢に!
そして、ほうれん草はお浸しじゃないわよ?
ちゃんと、フライパンに甘いスイートコーンにベーコンを混ぜてその上バターを混ぜてソテーにしたんだから!
どう、これなら好き嫌いの多い歩でも食べられるんじゃないかしら?」
そう、なんと雫は本当に料理が得意だったのだ!
しかし、誤算だったのは……雫が僕の好き嫌いに目を付けてしまったことだ。
雫が最初にお弁当を作ってくれたあの日、
僕がお弁当に入っていたピーマンを残したのが全ての始まりだった。
「歩! 何でピーマンを残すのよ!?」
「だって、嫌いなんだもん……」
「この私が作った料理がただの『好き嫌い』で残されるなんて、たまったもんじゃないわ!」
どうやら、この一件が雫の面倒くさいプライドを刺激したみたいで……
翌日から、雫は僕の『嫌いな食べ物』を聞いた上でそれをメニューに入れたお弁当を作ってくるようになったのである。
つまり……
『この私が作ってあげたんだから、嫌いな食べ物を克服しなさい!』
って、ことらしい。
お前は僕の母さんなのか……?
「それで……歩、どう? 食べられる?」
「うん……美味しい。普通に食べられるね」
「そ、そう! それなら良かったわ!
フフン、これでまた一つ、歩の好き嫌いが改善されたのね。流石は私だわ!
もう、これは『学校一の美少女』改め『学校一の美少女コック』を名乗った方がいいんじゃないかしら?」
名乗るな名乗るな……。
しかし、僕がこれを食べられるのは当然のことなのだ。
何故なら……
この二つ『大根』と『ほうれん草』は僕の好きな食べ物なのだ。
雫が僕の嫌いな食べ物でお弁当を作ると聞いた時に僕は思った。
……あれ? じゃあ、嫌いな食べ物って偽って好きな食べ物を言えば雫が僕の好きな食べ物でお弁当を作ってくれるんじゃないのかな? と……
「ウフフ♪ 例え、歩みたいなぼっち相手でも、自分が作ったものを『美味しい』って言ってもらえるのは気分がいいわね!
というわけで、歩!
明日のお弁当のメニューを考えるから、他の嫌いな食べ物を教えなさい!」
「うーん……。じゃあ『トマト』で!」
「『トマト』ね? うん、これならいろいろレシピが選べるわね♪」
「あ、でも――」
「でも、何よ……?」
「今は、それよりも『温かいお茶』が嫌いかな?」
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