第19話「確認」



「歩、貴方ってば、少し勘違いをしているのではないかしら?」



 今日も今日とていつもの放課後、図書室に来た僕を迎えたのは雫のそんなセリフだった。



「雫、どうしたの?

 僕は別に雫に関して何も勘違いしているつもりはないけど?」



 僕がそう返すと、雫は『待ってました!』と、言わんばかりの眼差しで僕を射抜き、喋り始めた。



「はたしてそうかしら……?

 歩、私はここ最近あなたと放課後の時間を共有するにつれて、ある疑問を抱くようになったの!

 それはもしかしたら、最初からあったかもしれない疑問だわ。

 ……でもね?

 人間って臆病なのよ。臆病だからこそ『かもしれない?』と、思うことを確認せずに、なぁなぁにしてしまうのよ。

 それはまるで古今東西『臭いものにはフタをしろ』という格言のように、はたしては『見て見ぬフリ』という日本古来から受け継がれる悪癖のよう!

 ……でもね?

 その『疑問』を今回、私は解消してみようと思うのよ!

 何故なら、そう!


 私は『学校一の美少女』だからよ!


 こんな自らを『学校一の美少女』と名乗っているのなら!

 それは、真実ではなければならないのよ!

 だって、そうでしょう?

 もし、私が自分で言っているだけの、自称『学校一の美少女』だとしたら、そんな女はとんだピエロじゃない?

 だからこそ、私は自他共に認める『学校一の美少女』でならなければならないのよ!

 そこで歩、貴方に質問よ……。


 貴方は私を『学校一の美少女』だと認めるかしら?」



 ふぅ、まったく……。


 雫ってば長々と何を話すかと思えば……まさか、こんなくだらない質問をしてくるなんてね?


 確かに、僕が散々からかっている所為で、この学校の生徒ではない人間が雫を見たら、彼女は自らを『学校一の美少女』と名乗るあわれなピエロに見えるかも知れないだろう。


 しかし、それは雫の容姿を見ていない人間の判断だ。


 一度、誰かが雫を見れば『清水雫』という人間の評価は一瞬で決定する。


 その水晶のように美しい瞳に細長いまつげ、綺麗に整った顔立ちに高い鼻と小さくもキリッとした唇、そして、グラビアアイドルも顔負けのボディー、そのパーツの全てが一級の芸術品かのように完璧であり、その組みあがった姿は文句の付けようがないほどの――


 『美少女』!


 それが『清水雫』という人間だ。


 だから、例え彼女がどんなにアホなことを言おうが、どんなに抜けていようが、喋るとボロがでようが、イジるとめちゃくちゃ面白い反応をしようが、外見だけにおいて彼女が『学校一の美少女』であることを否定できる人間なんてこの世にいないと僕は思う。むしろ、断言しよう!


 だからこそ……。



「雫、何を言ってるのさ? そんなの当たり前じゃないか?

 僕だけじゃない、この学校にいる全ての人間は間違いなく、雫が『学校一の美少女』だと思っているよ」



 しかし、雫が言っていた『勘違いしている』っていうのはこれか?


 だとしたら、とんだ思い過ごし――、



「そうよね! 歩、実に良い回答だわ!

 この回答においては貴方に満点を付けてもいいくらいよ!

 では、前置きはここまでにして……

 歩、私が確認したかったのはこの私が『学校一の美少女』だと言うことを前提とした質問なんだけど……


 貴方、私のことを『ぼっち』だと思ってないかしら?」



「……………」


「ちょっとは何か言いなさいよぉーっ!」



 この質問に僕は何も言えなかった。


 いや、答えることが出来なかった……。


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