第17話「見て欲しいのは……」



「何これ、超つまらないわ……」


「雫、ちょっと黙ってくれる?」



 今日も今日とていつもの放課後――ではなく、僕は雫と二人で映画館に超B級ホラー映画『入れ歯を落としただけなのに』を見に来ていた。




『ひぃいい! 入れ歯がぁ……じじいの入れ歯が俺の足の小指をアマガミしてくるんだよぉおお!

 ハジキだぁあ! ハジキであのじじいを殺さなきゃオジキの敵が討てねぇんだああ!』


『相棒、落ちつけ! お前の両足は誰かに噛み千切られてもう無くなっているだろ! 

言え! 一体その力ずくで噛み千切られでもしたかのような両足……

 一体誰にやられたんだぁああ!』


『俺をやったじじいの名は確か――フガハガフハガ!?』


『何!? 相棒の歯が突然入れ歯でも落としたかのように抜け落ちただとぉー!?』


 カチカチ……カチカチ……


『ホ、ホガァアアア!? ホガホガ! ホヒヘポォ~!(き、きたぁああ! 奴だ! 奴が、くるぞぉおおお!)』


『相棒、どうした!? 一体後ろに何が――って、うわぁあああ!

 入れ歯が宙に浮いてカチカチ歯を鳴らしてるぅううう!?  う、うわぁああああああああ――ッ!』



『ホガヘホ、ハガア……(ワシの入れ歯、何処かのぉ……)』




 上映終了後



「いやぁー、雫! 僕、超B級ホラー映画をなめてたよ!

 まさか、主人公の落とした入れ歯が陰陽道の祟りによって『呪いの入れ歯』になって、なんやかんやあって最後は宇宙サスペンスSFホラー展開になっちゃうんだもん!」


「むぅ~!」


「あ、あれ……? 雫、どうしたの……?」


「フン、なんでもないわよ!

 むぅ……べ、別に?

 歩がこの私に興味もくれず超B級ホラー映画に夢中になっていたから、拗ねているとかじゃないんだからね!?

 むむぅ~!

 だけど、この『学校一の美少女』である私が隣にいるというのに?

 まるで、その存在を忘れたかのように映画に夢中になるというのはいかがなものなのかしら?

 と、物議をかもしたい気分でもなくもないのよ!

 むむむぅ~!

 だって、だって! だってよ!?

 そもそも、この映画をお勧めしたのは私なわけであって!

 この映画を面白いと感じたのなら!

 それはまず! 真っ先に!

 この映画の存在を教えてあげた女神といえなくもない『学校一の美少女』の私にお礼と感謝を述べるのが当たり前じゃないかしら!?

 そして、私という存在をもっと大事に大切にやさしく、それでいてフレンドリーに扱ってくれてもいいと思うのよ!

 むむ、むっすぅうー!

 でも、だからって……

 怒っているわけじゃないんだからね!?」



 いや、めっちゃ怒ってるじゃん……。


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