第16話「あらすじ」
「歩、このチケットが何か分かるかしら?」
今日も今日とていつもの放課後、図書室に来た僕を迎えたのは雫のそんなセリフだった。
「何それ? 映画の前売り券みたいだけど……」
「あら、歩のわりにはいい勘をしているじゃない?
そうよ! これは、いま残念なくらい話題になっていない超B級ホラー映画『入れ歯を落としただけなのに』の特別前売り券よ!
本来は限定『インプラント型入れ歯ストラップ』が付いてくる超! 特別な前売り券なんだけど……
そんな超希少なチケットが二枚も余っているのよね~?
あら、勘違いしないでくれる?
前売り券を二枚買ったのはこの『インプラント型入れ歯ストラップ』が希少すぎて手に入らないかも知れないから二枚買っただけで……
べ、別に、歩なら一緒に見てくれるかも! って、期待して買ったわけじゃないんだからね!?
そうよ! だって、この『学校一の美少女』である私が、なんで『ぼっち』の歩なんかと映画に行く為に前売り券を二枚も買うと思うのかしら?
……あ、ありえないわ!
で、でもね……?
この映画は困ったことに一人で見てしまうと、呪われるって噂があるらしいのよね~?
ほ、本当よ!? 嘘じゃないんだからね!?
だから、ネットで調べようとするのを止めなさい!!
ほ、本当だから! けけ、決して……!
超B級ホラー映画だけど一人で見に行くのが怖いってわけじゃないんだからね!?」
なるほど……。
つまり、雫の言っていることを翻訳すると?
雫が好きな超B級ホラー映画の前売り券が出たから買ってみたけど、やっぱりホラー映画をいざ一人で見るのは流石に怖い。
だから、誰かと一緒に行こうと思って前売り券を二枚買ったが、買った後で一緒に見に行く『友達』がいないことに気付いたんだろう。
しかし、良く考えてみれば『僕』というアテはある。
でも、そこで『学校一の美少女』というプライドが雫の邪魔をして素直に誘う事が出来ない。
とまぁ、そんな感じだろう。
じゃあ、僕はいつもどおり雫が、
『……でも、歩がどぉーーしても! この映画を見たいっていうのなら……?
一緒に見てあげないこともないわよ?』
――とか、言ったら、いつもどおり断るか。
てか『入れ歯を落としただけなのに』って、このタイトルでどんなホラーを想像すればいいんだよ……。
ちょっと、公式サイトであらすじでも調べてみるか……。
【入れ歯を落としただけなのに】
冴えないサラリーマンの禿田(はげた)は会社や家庭からも疎外されていた。
家族との会話は『はい』か『いいえ』だけ、会社では頭を下げるだけ、そんな味気の無い禿田、通称『ハゲ』の人生は犬の散歩中に入れ歯を落としたことで大きく変わってしまう。
見に覚えの無い自分を神と崇めるホームレス。
自分を親の敵かのように探し殺そうとしてくるヤクザ。
自分をヒーローだと言う少年。
見に覚えの無い出来事にハゲは『自分じゃない』と言いたいが入れ歯が無くて喋れない!
そして、その頃……人里離れた海岸で次々とハゲた男性の遺体が見つかり、事件を担当する刑事は犯人がハゲの男を狙っていたことに気が付くのだった……。
なるほど……。
以上が、この映画のあらすじかぁ……。
「……でも、歩がどぉーーしても! この映画を見たいっていうのなら……?
一緒に見てあげないこともな――」
「なにこれ!? めっちゃ、気になるんだけど!!
雫、その映画どぉーーしても見たいです! お願いします!」
「――へ? そ、そう……?」
「うん、うん! マジで見たい!
てか、あらすじだけだと情報が足りなさ過ぎて内容がすげぇ気になるんだけど!」
「な、なら仕方ないわね!
もう、歩ってば……この私と一緒に見たいって言うのが恥かしいからって?
そんな分かりやすい嘘なんかついちゃって……ウフフ♪」
この日、何故か雫はものすごくご機嫌だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます