第15話「トリック」
「歩、今日は何の日か分かるかしら?」
今日も今日とていつもの放課後、図書室に来た僕を迎えたのは雫のそんなセリフだった。
「……はて、何だったかな?」
僕がそう言うと、目の前に座る雫は
『このバカはなんてこんな簡単なことも分からないのかしら!?』
と、今にも言いそうなくらい目を吊り上げて一気に喋りだした。
「歩ってば、なんでこんな簡単なことも分からないのかしら!?
はぁ……歩、貴方には心底ガッカリしたわ!
ええ、それはもう潜水をしたのなら深海の底まで!
または、マグマを素通りしてブラジルの地面から『こんにちは♪』するくらいまでガッカリしたわ!」
ブラジルの地面から『こんにちは♪』って……それ、もう逆にご機嫌じゃね?
しかし、僕が『今日は何の日か?』を当てられないだけで、雫がこんなにも憤慨しているのは彼女の頭を見れば一目瞭然だろう。
「いいこと、歩?
人間には目があってそれで何かを見ることができるわ。
でもね? ただ漠然とものごとを見てはいけないのよ!
今日という一日はかぎりあるもので、世の中には今日にしか存在しない『変化』というものがあるのよ!
だからこそ、私達にはその生まれ持った瞳で日ごろから些細な変化にも気づかなくてはいけないのよ!」
そういう雫の頭にはジャック・オー・ランタンの形をしたカボチャのお面が乗っかっていた。
そう、今日は『ハロウィン』なのだ。
「さあ、歩! ここまでヒントを言ったんだから、今日が何の日か分かるわよね!」
「……さぁ?」
とりあえず、僕は雫が当てて欲しそうだったので、分からないフリをすることにした。
「ハロウィンよ! ハロウィン!
歩ってば、この私の頭にあるカボチャのお面を見て何も気付かないって頭おかしいんじゃないの!?」
どうやら、雫はハロウィンで頭が少々愉快な感じになっているらしい。
「ねぇ、歩! 聞いているの!?
まったく……貴方ってば、この『学校一の美少女』である私がよ!?
せっかく今日と言う『ハロウィン』を貴方みたいな『ぼっち』にも味あわせてあげようと思って昨日の夜から、外に出てハロウィンにピッタリなこのお面を見つけるまで何時間も私がお面を探し回ったというのに――」
お、ヤバイ! 雫のいつもの長い小言のような説教が始まってしまった!
とりあえず、ここは雫を適当におだててご機嫌でも取っておくか。
「雫、気付かなくてゴメンね?
ほら、僕って雫以外にからかう――、
じゃなくて、話せる人がいない『ぼっち』じゃん?
だから、今日がハロウィンだなんて言われるまで……
いかんせん、まったく、サッパリ、これっぼっち(ぼっちだけに)も思いだせなかったんだよ!
でも、こんな『ぼっち』の僕にもハロウィン気分を味合わせてくれる雫のおかげで、今日がハロウィンだってことを実感できたよ!
雫、ありがとう!
やっぱり、雫は『学校一の美少女』で世界一優しい女の子だなぁ~!
雫バンザーイ! ビバ、雫! 雫、サイコー!」
というわけで、適当に雫をおだててみた。
「――な、何よ急におだてちゃったりして……
そ、そんなので騙されたりなんかしないんだからね♪」
そう答える雫は満面の笑みだった……。
どうやら、効果はバツグンみたいだ。
「まぁ、いいわ!
どうやら歩も、この神が作り出した世界の奇跡とも呼べる存在である私の尊さに気づけたようだし……?
このことは、さっぱり、バッサリ、スッキリ水に流してあげるわ!
そういうことで、歩!
トリック・オア・トリートよ!
イタズラをされなくなければ、この私にお菓子を献上しなさい!」
その言い方、もはや脅迫だな……。
でも、こんなこともあろうかと昨日ハロウィン用のお菓子として『うめぇ棒』を買っておいて正解だったな。
ん、待てよ……?
トリック・オア・トリート(イタズラをされなくなければ、この私にお菓子を献上しなさい)
ってことは――お菓子をあげなければ『学校一の美少女』が
イタズラをしてくれる
「『トリック』でお願いします!」
「……はあ?」
「『トリック』でお願いします!」
「え、いや……ちょ、歩? な、何を言っているのかしら……」
「ゴメン、雫。
僕『ぼっち』だからハロウィンなんて頭になくてお菓子用意してないんだ。
だから、どうか――、
僕に思う存分『イタズラ』してください!」
「は……はぁああああああああ!?
ちょっと、歩! 貴方ってば何を言っているのよ!?」
「
「いやぁああああああ!? こっち来ないでぇぇええええええ!?」
この後、普通にうめぇ棒をあげたら、雫にぶん殴られた。
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