第12話「イベント」



 今日も今日とていつもの放課後の図書室。そこで僕はいつもどおり雫の話を――、



「歩、私は思うの!

 例えば『ホラー』においてもっとも大事なことは何か……?

 それは、面白さやストーリーと答える人もいるとは思うのだけど……

 でも、真に大事なのは『怖いか?』なのよ!

 だって『ホラー』をうたっているなら、その小説や映画がどんなに面白くて、どんなにストーリーが良くても、そこに『恐怖』を感じなければ『ホラー』とは言えないんじゃないかしら!?

 なぜなら『怖くない』と思われた時点で『ホラー』としては駄作に成り下がるからよ!

 コホン……。

 だ、だからね?

 つまり、そのことを踏まえて先日の映画館の件を考えると……

 私が『ガチホラー映画』を見て泣き喚いたのは何一つ間違った反応ではなく、それは恥かしいと思うようなことではないってことよ!!

 ――どう! 分かったかしら?」


「ゴメン、雫。少し、黙っててくれるかな?」



 ――わりと、聞き流してた。



「ぬなぁあああ!? ちょ、ちょっと、歩!!

 貴方、この私に向かって『黙ってくれる?』とはどういうことよ!

 私は貴方が先日の映画館のことを何度もイジって来ようとするから、それに対するみごとな反論でロンパをしてあげようとしているのに……

 その私にこの仕打ちはないんじゃないんかしら!?」



 なので、雫への返事が結構適当になっているが……まぁ、雫の長い話なんていつも何を言っているのか分からないし、適当でも大丈夫だろう。



「あぁ……うん、そうだね……」


「え……ちょ、ちょっと、歩! 何んか反応寂しくないかしら……?

 もしかして、私がいつもキツイ言い方ばっかりするから怒ったの?」



 僕がこうなっている理由は単純だ……。何故なら、今日から新しいガチャとイベントが開放されているからだ!


 いやぁ~、まさか初回10連でいきなりイベント限定特効キャラを引き当てるなんてついてるね!


 これは雫の話なんか聞き流して、イベント周回まっしぐらでしょ!


 

「ちょっと、歩! スマホばっかり見てしてないで、私を見なさいよ!

 ――って、ここ、これは!? そ、そういう意味じゃなくて……

 私という『学校一の美少女』が貴方の相手をしてあげているのに、貴方がそのありがたさを微塵も感じてないようだから、言っているだけで……

 べ、別に……せっかくできた話し相手に無視されるのが嫌なだけなんだからね!?」


「……そう、大変だね」


「って……あれ? そ、それだけなの?

 もっと、こう……あるでしょう? 反応とか?

 ねぇ、歩? も、もしかして……本当に怒っているの?

 だ、だとしたら謝るから! だ、だから……いつもみたいに私の話を聞いてくれる歩に戻って……ね?」



 お、レア素材もドロップした! これは運が回ってきたな。とりあえずは、スタミナを消費し切るまではスマホから手が放せな――、



「うぅ……。わ、分かったわ!

 歩が私の態度に実はそこまで怒っていたと言うのなら……


 何でも一つだけ歩のお願いを聞いてあげる!


 だ、だから、これで許して――」


「――詳しい話を聞こうか!」



 とっても、面白そうなイベントが始まった!


 そう、思った僕はスマホを制服のポケットへと閉まった。



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