第11話「一口」
「ぴぃ~♪ ぴぃ~♪」
「…………」
雫ってば、ホント美味しそうにあのデザートを食べるなぁ~。
結構量もあると思ったのにもう半分しか残ってないよ……。本当にそんな美味いのかな?
「……ねぇ、雫。良かったら、僕にも
「ダメよ!」
「「…………」」 シーン……
……コイツ、秒で断りやがった。
人がまがりなりにも勇気を持って言ったお願いを平然と断るとか、コイツに慈悲の念とか人の心とかはないのか……?
「…………」
「ぴぃ~♪ ぴぃ~♪」
それにしても、断られると逆に食べたくなるな……。
よし、ここは恥を忍んでもう一度お願いしてみよう!
流石の雫も二回もお願いを断るなんてマネは――、
「ねぇ、雫。そのデザートを頼んだのは僕だった気がするんだけどなぁ~?
それに、ここの会計も僕が持つことになっている……。
なら、必然的にそのデザートの所有権は僕が持っていることにもなりえるわけだから、僕の『一口欲しい』というお願いを聞き入れるのは当たり前のような――」
「ダメよ!」
「「…………」」 シーン……
雫の奴、またもや秒で断りやがった。
こっちが一度断られた恥かしさを飲み込んで、その上で僕にもそのデザートを食べる権利があると説いた上でのお願いだと言うのに、それでも断るとは人として何かが足りないのではないだろうか?
もし、これが僕なら人のお願いを秒で断るとか――、
ましてや、二回も同じお願いをしているのに冷たく突き放すなんてマネは絶対にしないだろうと思うんだよね。
「ウフフ、歩ってば……
『うぁ~、雫ってば美味しそうに食べてるなぁ~。僕も一口欲しいなぁ~……』
――みたいな感じで『一口』要求してきたけど、その手には乗らないわよ!
何故なら、歩!
私は貴方の本当に狙いに気付いているんだからね!!」
僕の本当の狙い……? はて、何だろう? マジで心当たりが無いぞ?
「ハッ、この『学校一の美少女』である私が貴方のその浅はかすぎる狙いに気付いていないとでも思っていたのかしら……?
貴方はそうやって――、
『ただ、僕はこのデザートが食べたかっただけなんですぅ~、ホントにそれ以外の目的なんて無かったんですぅ~』
みたいな顔でひょうひょうとお願いしてきたけど、貴方の真の目的は!
このデザート『シロヌワール』を食べることではなく……ッ!
そう! この『学校一の美少女』の私が食べたシロヌワールに――
く、くく……口を付けることだったのでしょう!?
まぁまぁ! なな、なんて……ハレンチなことを考える男なのかしら!?
よよ、よもや! わわ、私の食べ残しを貰って……
かかか、間接キッスなんて大胆な犯行を考えていたなんてね!!
ま、まぁ……?
それは、確かに、必然として当然として?
この『学校一の美少女』で私の食べ残しを口にしてみたいと思うのは……?
例えば、エデンで美味しそうにリンゴを食べるイブを見たアダムが禁断の果実に口を付けてしまうかのように当たり前で――、
って、誰がイブで誰がアダムなのよ!?
ああ、貴方ってば! 私がイブみたいに神秘的で美しいからって……
自分までアダムに例えて、私達をアダムとイブに見立てるなんてどれだけ巧妙なセクハラを働くつもりなのかしら!?」
「いや、最初にその例えを出したの雫じゃん……」
というか、その例えなら、最初に禁断の果実に手を出した愚か者は雫なんだよなぁ……。
「だ、だまらっちゃい!!??
あ、歩が何と言おうと……かか、間接一口なんてゆるさにゃいんだからね!!!」
結局、僕はリンゴみたいに真っ赤になった雫をどうにかなだめて……
その禁断の果実を一口だけ分けてもらうことには成功したのだった。
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