第53話 秋の夜長
「こうして歩けるのも、なんだか懐かしい気がします」
「そうだな」
俺の手を優しく握りながらひなたはそういうから俺もその手を握り返す。
勝彦さんたちを見送った後、すっかり暗くなってしまった道を俺とひなたは歩いていた。日中の熱さが嘘だったかのように日が暮れてからは冷え込み、あまり厚着をしてこなかった俺たちは互いを温めあうように手を握る。手元だけは心地よいぬくもりがあり、その温もりは俺の胸をゆっくりと温める。
俺達は家へと帰りながら今日の出来事を振り返っていた。一日という短い間だったけれど、内容が日常の何倍も濃い一日だった。
体を支えている足はずしりと重く、仕事をした後よりも疲労感が強い。
ひなたも疲れているのだろう、時折ふわあっとあくびをしながら歩いている。
「どうでしたか?私のお父さんとお母さんは」
「良い人だったと思うよ。あとすごい家族仲が良かった」
「えへへ、そうでしょう?」
正直な感想をそう伝えると、ひなたは子供のような無邪気な笑みをこちらに向ける。
「でもお父さんは全然大輔さんと話さなかったですね……」
「そうかな?結構話したと思うけど」
話題は今日の勝彦さんのことになっていく
「いつもはもっと話すんですよ。でも大輔さんの前だと全然話さないし、顔も怖いし……」
勝彦さんの顔が怖くなっていたことには気が付いていたらしい
「俺だって全然勝彦さんに話しかけられなかったよ」
「ですよね。もっと仲良くしてほしかったなー……」
「……最初はそんなもんだよ」
段々と話せるようになっていきたいとは思った。家族に向けていたあの親し気な笑顔を向けてくれるまで何日かかるかわからないが、やってみせるよ。
ひなたには言わないでそっと決意を固めた。
その時、ひなたはあっと小さく声を上げこちらに視線だけ向けた
「今度は大輔さんのご両親にも会ってみたいです」
「え?ああ……」
突然そんなことを言われ、俺はふと自分の親について考えた。
何事にも放任主義なうちの親はひなたの家庭とは全く逆のようだ。あまり親に思い入れもないし、あっちも俺からの連絡なんて求めていないだろう。
ひなたの家族像は俺にとって別世界の何かのような気がして、本当に羨ましい、そう思う自分もいたのだ。
そんなことを考えていたら、久しぶりに両親の顔を見たくなってきた。
「今度長い休みが取れたら実家に帰ってみようかな」
「え!じゃあ私もついていきます!」
ぼそっと独り言のように呟くと、ひなたは目をキラキラと輝かせながらこっちにずいっと寄ってきた。
「まじ?」
「迷惑ですかね……?」
「いやそうじゃなくて、行っても何もないよってこと」
「大輔さんのご両親がいらっしゃいます」
「はは、そうだな」
俺はそんなつもりで言ったわけじゃないが、ひなたの真面目さが極まった回答に思わず顔を綻ばせる。
「じゃあ今度行こうな」
「はい!約束ですよ」
それから家に帰るまで跳ねるような足取りでひなたは隣を歩いていた。
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