第47話 二日酔い

「うええ……」

「ほら、だから言ったのに」


結局昨日は夜中までひなたとあかりさんと飲んで、朝起きた頃には立派な二日酔い状態だった。ひなたはいつもの時間に起きてくれて、コンロの前に立って朝食を作りながら僕の方を見て呆れていた。

俺が本気で吐きそうになっているところに、呆れた声を出しながらもひなたは俺に水の入ったコップを持ってきてくれた。俺はその水を一口で飲み切る。


「大学生はいいなあ……」

「まあ、確かに」


ひなたはクスリと笑うと、俺が見つめる先、ひなたのベッドで寝ているあかりさんの方を見る。


「あんな感じですしね」

「やっぱり社会人はあんまり無理するもんじゃないな、二日酔いに苦しむ余裕もない」

「でも、久しぶりにはしゃいだ大輔さんを見れて私も楽しかったです」

「そりゃあ良かった」

「はい……ほら、もう朝ごはん出来たんで食べてください」


ひなたはそう言いながら朝ごはんの用意をしてくれた。

ご飯に納豆、みそ汁、鮭の塩焼き。昨日のダメージが残っている俺にとてもやさしい献立だった。


「いただきます」

「どうぞー……って、大輔さんもうこんな時間です!」

「え……うわ!ほんとだ!」


ひなたがテレビのニュース番組をつけると、そこにはいつもより三十分遅い時間が表示されていた。俺はそれを見て慌てて朝食を口に放り込んだ。

俺は大きな失態に気が付く。


「ああ、今日スーツ俺の部屋に置きっぱなしだ!」

「えー!早く行っちゃってください!これ弁当ですから!」

「あ、ありがと!じゃあ行ってきます!」


俺は急いで俺の部屋に戻って、部屋着からスーツに着替える。ひなたの部屋でやり残した身だしなみのチェックをして、ひなたの弁当をバッグに詰める。


俺は準備を終えると部屋を飛び出し。大急ぎで会社に向かった。



―――――――――


「あかり、起きてるでしょ」

「うっ」


大輔さんを大急ぎで見送った後、私は食器の片付けをしながらあかりの方を見ないで指摘した。


「いつから起きてたの」

「ええとお……おはようのチューから……」

「してないしてない。」


あかりが思いっきり嘘をつくので、私ははあと大きなため息をつきながら未だに布団に包まっているあかりに声をかける。


「まあ今日は忙しかったけど、いつもあんな感じだよ。特に恋人っぽい事してないでしょ?」

「いや……逆に……」

「逆に?」

「なんかもう熟年の夫婦っぽかったっていうか……こいつら結婚何年目?ってっかんじ」

「うっ」


今度が私があかりのようにうめき声を上げる。

私も思っていたことだが、他人に、しかも仲の良い友人に指摘されるとそうかと実感してしまう。

私は反撃のつもりでこんなことを聞いてみた。


「感想は?」

「なに、感想って……まあ、羨ましいかな」

「羨ましい?」

「うん……私は恋人って感じより仲がめっちゃいい異性の友達、みたいなのがいいからさ、大輔さんとひなたって、そんな感じだよね。」

「なるほど……」


いきなり聞いた私に対し、素直な言葉で返してくれたあかりに、私は驚いた。

あかりは今まで恋とか愛とか、そんな話をあまりしてこなかったため、今日初めてあかりの“タイプの異性”を聞いたような気がした。


だから私も素直な言葉で返した。


「なんか、あかりっぽいね」

「なにそれ」

「あはは、何でもなーい。ほら、朝ごはんできたから食べよう」


一瞬不機嫌そうな声を出したが、朝ごはんのにおいを嗅いだのかすぐに布団から飛び出して椅子に座った。


「ひなたちゃんの手料理かー!楽しみ!」

「そんな立派なものじゃないけどね」


私はさっき大輔さんに用意した朝ごはんと全く一緒の献立を、あかりの前に置いた。

あかりはぱあっと顔を輝かせると、手を合わせた後すごい勢いで食べ始めた。


そんな彼女に私は微笑みながら、このゆっくりと流れる時間を楽しんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る