第46話 打ち上げ
「いやあ、お二人とも、ありがとうございました!」
オレンジの夕暮れを背景に大きなテニスバックを背負い、俺らにお礼を言うあかりさん。
この二日間の結果はあまり良くはなかったらしいが、あかりさんの清々しい顔をしているのを見ると、悔いはないらしい。
「あかり、すごかったよ!上手だった」
「えへへ、だろー!あかりちゃんはテニス上手なんだよ」
二日目も最後の方は、ひなたは俺に荷物持ちを任せてあかりの試合を観戦しに行っていた。
ひなたとあかりが話しながら歩くのを、後ろから俺は見ている。
あかりを見つめるひなたは、まるで姉を尊敬する妹みたいだった。
しばらく歩いて駅に着くと、構内には人はまばらで、俺たちはベンチに座りながら、これからのことを話す。
「どこか食べに行こうか?」
「え!奢りですかそれは!喜んで!」
「ああ、いいぞ、おごってやる」
あかりは嬉しそうに飛び跳ねた。
「じゃあ焼肉でお願いしまーす!」
「お前が決めるのかよ」
「今日のMVPだよ!ね、ひなた!」
「私も焼き肉がいいですー!」
ひなたのテンションも、あかりさんにつられて高くなっていた。
女子大生二人と飯食いに行くおっさん。うーん、怪しい。
何て一人で思いながら、俺たちは今来た電車に乗った。
「ふー、ご馳走様!ありがとうございました」
「おう、良い食べっぷりだったな」
「おいしかったです!」
俺たちはお腹、をいっぱいに膨らませ、帰り道を歩いている。
あかりはお腹をポンポンと叩きながらお礼を言ってきた。礼儀はしっかりとしている。
あかりの要望で、いっぱい食べたいから食べ放題のお店に行って正解だった。
「あかり今日うち泊まっていく?」
「ええ、悪いよ。大輔さんもいるし」
「俺のことはいいけど、授業大丈夫なのか?」
「はい、明日は二人とも三限からです」
「じゃあ泊っていきなよ」
「大輔さんが認めるのか!まるで大輔さんの家だな!」
ははっと乾いた笑いを出した後、あかりは続けた。
「なら泊ろうかな。服とってきていい?家すぐそこだから」
「うん、待ってるね」
「はーい」
あかりはダッシュして帰っていった。
「ごめんなさい、いきなり決めて」
「いいよ、俺が決めることじゃないし」
ひなたは明るい表情で歩く。
「大学ではいろんな子と話すんですけど、やっぱり明かりが一番落ち着くんですよ。なんかお姉さんって感じで」
「ああ……」
妙に納得してしまう。
「ふふっ」
「なんで笑うんですか!」
「なんか、妙に納得しちゃってさ……」
「あはは、なるほど。そうですね」
他愛もない話をしていると、あっという間に家の前に着いてしまった。
「じゃあ、私はここで。明日の朝もご飯作れないかもです」
「良いよ全然。じゃあね、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
俺は自室に戻り、冷蔵庫を開く。
ひなたたちと食べている時は飲んでいなかったため、なんだか飲みたくなった。
俺はビールを取り出し開ける。
「明日からまた仕事かあ……」
独り言ちて、座りながらため息を吐き出すが、そこまで明日が憂鬱ではないことに気が付いた。
しばらくすると、隣からあかりの声が聞こえた。家に着いたのだろう。
しばらく聞いていると、何を話しているかわからないが、かなり盛り上がっているように聞こえる。
その声に耳を澄ませていると、俺のスマホが震えていた。拾い上げて画面を見ると、ひなたからの電話だった。
「はい?」
「大輔さんもこっち来て飲もーよ!」
いきなりの爆音に俺は携帯を耳から離した。確実に酔っぱらったあかりさんの声だった。
「お前酔うの早くないか?」
「へっへー、そうですかね?まあ何でもいいんで早く来てよ!」
そういって俺の返答を待たずにあかりは電話を切った。
「ははっ」
大学生の若さに引っ張られて、俺の心も若返っていく。
俺はすぐに冷蔵庫の中のビールをすべてビニール袋に入れ、部屋を出る。
ひなたの部屋の前に立ち、俺はインターホンを鳴らす。ほどなくしてひなたが出てきた。
「あはは、ごめんなさい。あかりが誘おうって」
「全然いいよ!じゃあ飲もうぜ!」
「あ、大輔さんもかなり酔ってる……明日の仕事、どうなっても知りませんよ?」
「ああ」
「お、大輔さん来たなー」
「飲もうぜ!」
「あー、こんなにいっぱい……飲み過ぎですよ!」
三人の部屋はさっきよりも倍騒がしく、角部屋とはいえ、下の住人に申し訳ない。
でも、俺は久しくそれを忘れて、騒ぎ立てる。
大学生の若さに引っ張られ、昔を思い出した。
『お前飲み過ぎだぞ!明日大丈夫かよ』
『余裕だね!あと俺は酔ってない』
懐かしい思い出も、頭の中で何度も再生される。
ああ、若さっていいなあ。
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