第26話 変化

あかりさんが帰ってから、俺はひなたの部屋で泊まることにした。


「ふふ、結局いつもみたいな感じになりましたね」

「そうだね……ひなた、今日は俺の分の布団引かなくていいよ」

「え?……なんでです?」

「ベッドで一緒に寝たらいいじゃん」


俺の方からひなたを求めたのは久しぶりだった。

足りなかったのは、俺の自信だけだった

俺の言葉を聞いたひなたは、目を輝かせながら提案する。


「あの、じゃあ今日はお布団引いて一緒に寝ましょう!」

「え?なんで?」

「広い方がいいですよね?」


意地の悪そうな顔でにやりと笑いながら話すひなたに驚きながらも、付き合い始めの緊張が戻ったように、ぎこちなくひなたの提案に同意する。


なんか一杯食わされた気がして悔しかったから、やり返しのつもりで冗談のつもりで言ってみた


「じゃあお風呂も一緒に入る?」

「いいですよ!じゃあ入りますか!私から入ります!」


あっちも食い気味で同意する。


「あ、いや今のじょうだ……」

「え?」

「いや、なんでもない」


冗談だ。と言おうとするのを察して、寂しそうな顔をする。


「じゃあ入ってきます!」

「う、うん」



しばらくしてから、呼ばれたので洗面台に行き服を脱ぐ。隣にひなたの服が置いてあって、目のやりどころに困ってしまう


「じゃあ、おじゃましまーす……」

「えへへ、いらっしゃいです!」


何故かいつもの倍は元気なひなたのはいる浴槽に、俺も一緒に入る。


「ちょっと狭いですね……」

「そう、だね……」


ひなたの服だけでも目のやりどころがなかったのに、向かいに座るひなたを直視できるわけがなかった。


初めて見る訳でもないが、明るいところで見るひなたの体は、暗闇よりも輪郭がはっきりしていて、どこか艶かしい。


「意外と恥ずかしいね……」

「は、はい……あ、からだ流しますよ!」


しばらく湯に使って、2人で同時に出た

ひなたはボディソープを手に伸ばして俺の背中を洗い始めた。


「ふっ……ふう、意外と背中大きいですね」


少し息を荒くして一生懸命に背中を洗ってくれるひなたの姿を想像してどきどきしてしまう。


しばらく無言でいたあと、ひなたがおもむろに話し始めた。


「大輔さんの部屋を掃除した日、私大輔さんのの日記ノート見ちゃったんです。」

「え!ほんとに?」

「はい。ごめんなさい。でも、悪いなって思ってみていたら、大輔さん変な事書いてて。なんか最近不安だったんですよ……?」

「日記になんか書いてあった?」

「その……このままいいんだろうか的なことです」

「あぁ、あれか……」


ひなたの様子がここ最近変だったのも、あの日からだった。

つまり……全部俺のせいだったのか。

ひなたに辛い思いをさせたのも、少しだけ距離があいたのも……全部、俺の自信が足りないからだった。


「でも今日はなんか違います。嬉しいことばかりしてくれます。」

「うん……ごめんね、気づけなくて」

「謝らないでください。むしろ私が何かしちゃったのかなかと思ってて……」

「何もしてないよ。ひなたは何も悪くない。」

「はい」

「だからさ、これからは俺が……しっかりするから」

「はい」

「だから見ててね」

「嫌です」


不意に背中を洗う手が止まる。止まって、ひなたが俺の腰に手を回してきた。


「え?」

「二人で、ですよ。二人でしっかりしていきましょうよ。付き合ってるんですから」

「……!うん、ありがとう」


夏の初めに、これからひなたと色々な所に行って、色々なものを見て。

仕事だけだと思っていた人生は、少しずつ、変わり始めていた。


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