第18話 偶然

ひなた:お仕事お疲れ様です!いきなりなんですけど、今日もう1人晩ご飯食べる人いるんですけどいいですか?


大輔:ありがとう。構わないよ!知り合い?


ひなた:いや、知り合いとは少し違うんですけど……まぁ、後で説明しますね


大輔:分かったよー、じゃあ今日も少しだけ残業してから帰るね!晩ご飯楽しみにしてる


ひなた:おまかせください!


最後に走っている猫のスタンプを送ってトーク画面を閉じる。


「じゃあ今日はカレーでも作りましょうか」

「了解です!お手伝いします」


榊原さんと色々話して分かったことは、とんでもないうっかり屋であるということと、社会人であるということ。


ただ嘘をつくような器用な人にも見えないから、本当に財布を忘れたらしい。


「堺さんは大学生なんですか?」

「ひなたでいいですよ。はい、大学生です」

「じゃあひなたちゃんだね!私のこともあいって呼んでいいから!」


下の名前をあいと言う彼女は、私に指定された野菜や肉を選んでかごに入れていく。


「そう言えばもう1人いるって言ったけど2人で暮らしてるの?」

「いえ、一人暮らしです。もう1人はお隣さんで、よくご飯を食べに来るんです」

「ふーん……なんかその人は幸せだよね」

「え?」

「だって、こんなに美人な人が、毎日ご飯作って待ってくれてるなんてさー!」


曇りのない笑顔で、素直な言葉をかけてくれるあいさん。彼女の顔の幼さも相まって、女の私でもどきどきしてしまう。


「そんなことないですよ。それに、あいさんの方が美人です」

「いやー、そんなことないですよー!」


さっきまでの泣き顔はどこかに消え去り、満更でもない笑みを浮かべ、すっかり元気を取り戻していた。


しばらく無言でいて、ぽつりとあいさんが独り言のように言葉を発した


「私も料理しないとなぁ……」

「一人暮らしなんですか?」

「うん……まぁね、この間ちょっと色々ありまして……」


色々あった。そう言って彼女は、寂しそうな笑みを浮かべる。


あぁ、社会人って本当に大変なんだな。


なぜかいつも夜遅く帰る大輔さんの笑顔と一致するのを感じて、何かしみじみとしていまう。


そのまま買い物を終えて、あいさんを連れて私の家に帰った。



「おじゃましまーす!うわぁ!整ってて綺麗な部屋だね!」

部屋に入ったとたんに、部屋の隅々まで見渡して感嘆の声をあげるあいさんを見て、思わず笑ってしまう。


「どーしたの?」

「いえ、少し面白かっただけです」

「なんか面白かったかな?まぁいいや、カレー作るの手伝いますよ!」

「はい!お願いします」


最初は不審者を家に招き入れてしまったと思ったが、今ではもう意気投合してしまって、そんな後悔なんてすっかり忘れてしまっていた。


それからカレーを作るあいだに、お隣さんとの出会いや、付き合うまでの過程を私は話してしまっていた。


カレーを作り終えて、大輔さんを待ちながら、彼女と机に向かい合って紅茶を飲んでいた。


「じゃあそのお隣さんとは色々あったんだねぇ」

「はい、今では大切な人です」

「うちの上司もね、ある日いきなり、お隣さんと仲良くなった!とか言って弁当とか持ってきちゃって。ほんとにびっくりしちゃったよ」

「えー、よくあることなんですね」

「そーだよね!あの上司も今頃はその人といちゃいちゃしてるんだろうなぁ」


上を向いてぼーっとしながら、きっとその人のことを考えているであろうあいさんは、どこか寂しそうな顔をしていた。


「もしかして、その上司のこと気になってたりとか、してました?」

「えー、分かる?実はさぁ……」


ピンポーン


あいさんの会話を遮るようにチャイムが押される。


「あ、帰ってきたかも。出てきますね」

「はーい」


玄関先まで行って、いつものように大輔さんを迎え入れる


「今日もお疲れ様です!」

「うん、ありがとう。で、今日来てる人って?」


廊下を歩きながら、部屋で着替えてきた私服姿の大輔さんを部屋まで通す。


「あぁ、それなら……こちら、あいさ……」



「え、榊原?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る