第19話 帰り

榊原さかきばら!?」


ひなたが招いた客と聞いて、最初は大学の友達と思っていたが、意外にもそこには榊原の姿があった。


「え、え?先輩……?」


硬い表情でこちらをみつめる榊原。どうやらあっちも事情がよく分かっていないらしい。


「ま、まぁとりあえずカレーできてますから!食べましょうよ!ね?」


何も言わずに察してくれたひなたが慌ててフォローをしてくれるが、正直それどころの話じゃなかった。


「いや、ちょっと榊原……こい」

「は、はい……」


玄関の方に向かい、榊原と少し話をする。


「おまえ……どうして」

「違うんですよ!違うんですごめんなさい!」

「はぁ……?」

「知らなかったんですよ!ここが先輩と女子大生の愛の巣だって!今日はもうここで帰りますから!」

「愛の巣って言うなよ!いや、なんか理由があるんだろ?聞かせてくれ」

「はい……実は」


榊原はショッピングモールでの出来事について話をしてくれた。


「なるほどな……おまえ、財布なくすなよ」

「す、すいません……」

「まぁ、今日は食べていきなよ。もう三人分作ったんだろ?」

「はい……ありがとうございます……」


2人で部屋に戻って、みんなでカレーを食べることにした。


「へー、じゃああなたが後輩のあいさんだったんですね!いろいろ話を聞かせてもらってます」

「ひなたちゃんこそ、色々話聞かせてもらってるよ!先輩ったら、君のこと話す時めちゃめちゃ嬉しそうに話してるよ」

「お、おい榊原……」

「そ、そうなんですね」


恥ずかしそうにこちらをちらちら見ながら微笑むひなたにどきりとしてしまう。


「ちょっとちょっと、ここでイチャイチャしないでくださいよ!」

「イチャイチャしてない。てかお前がこの話振ったんだろ」

「へへ、そうでした」


にやにやと俺の顔を見つめる榊原。



食べ終わってからも、3人での会話が楽しくて、特にひなたと榊原が思いの外仲が良くなり、まるで古くからの友達のような仲になっていた。


「じゃあ、そろそろ私は帰りますね」

「おう、じゃあな」

「大輔さん、送ってあげてください、片付けておきますから。」

「わかった。じゃあ行こうか」

「はい!」


駅までの道中に、ぽつりと榊原は呟いた。


「はぁー、なんか嫌な女ですね。私」

「え、なんで?」

「だってひなたちゃん知ってたはずですよね?私が先輩のことが好きだったって……」

「あ、あーなるほど」

「お金は先輩に返しますから。もう家には行きません……」

「いや、行ってあげなよ」


俯いて、独り言のような声量で告げた。


「え?」

「あんなひなた、初めて見たんだよ。あんなに楽しそうにしてるの。本当に見てて楽しかったんだ」

「……」

「だからまたおいでよ。また一緒に飯食おうぜ。ひなたと3人で」

「……あー、はいはい、わっかりましたよ!じゃあここまででいいんで、さっさと帰ってひなたちゃんとイチャイチャして下さい!」

「な……お前なぁ」

「はは、じゃあね!先輩!」


少し目を潤ませながら、榊原は走って行ってしまった。

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