第16話 堺ひなた

朝は早い。


高校生の時には、大学生になったらこんなに早く起きなくて済むと思っていたのに。意外と大学生活も甘くはない

でも、引っ越ししたおかげで、この生活が好きになった。


起きたらすぐにシャワーを浴びて、朝ごはんの支度をする。初めは手こずることも沢山あったけど、3週間もしないうちに慣れてしまった。

必要なのはやる気と、食べてくれる人


ピンポーン


部屋のチャイムがなって、時計を見るといつもの時間。考え事をしながら支度をするようになるとここら辺の時間の経過は一瞬だった。

急いでドアを開けに行く


「おはようございます、大輔さん」

「うん、おはよう。ひなた」


まだ少しなれない距離感を保ちながら、一緒に朝ごはんを食べる。この時間は私にとって1番幸せな時間だ。

大輔さんの顔を見て、声を聞いて、沢山話せるから。


「そう言えば、夏休みっていつからなの?」

「再来週辺りからだと思いますけど、今はわからないです。確認しておきますね」

「うん、よろしく。休み中どこか行きたいところある?」


遊びに誘ってくれること自体とても嬉しくて、飛び跳ねてしまいそうになる心を隠して、真顔で考えるふりをする。


行きたい所なら、沢山ある


「そうですね……私、遠いところに行きたいです」

「あー、いいよね!どこがいいかなぁ……沖縄とか?」

「沖縄は高校の修学旅行で行ったので、北海道に行きたいです!」

「北海道って冬に行く所じゃないの?」


笑いながら大輔さんは聞いてくる


「えー……そっかぁ……じゃあ、間をとって神戸にしましょう」

「ほんとに間だね」

「いいじゃないですか。神戸」

「いいね。神戸」


謎のやり取りの後、旅行先の話について盛り上がる。

そのまま結局時間が足りず、この話は夜に持ち越しになってしまった。


「じゃあ、行ってくるね」

「はい、行ってらっしゃい」


軽く唇を合わせ。大輔さんはアパートの階段を降りて行ってしまった。

やっぱりいつまで経っても初々しい口付けの感覚に、私の鼓動が反応して早くなる。


早く支度をしないと。


緩んでしまう頬を叩いて、支度をして部屋を出る。



私の大学は近所だから、自転車を漕いで20分もしないうちに学校につく。

まだ時間が早いけど、講義を受ける教室に向かうことにした。


教室に入ると、印象的なショートカットが目に入る。


「早いね、おはよう。」

「お、ひなたじゃん!おはよー早いね!」


朝から元気を振りまく彼女の名前は藤田朱里ふじたあかり


大学で初めて出来た友達で、大学内では1番の友達だ


「いっつもこんなもんだよ、あかりこそ早いね」

「まぁね!今日は朝から部活やろうって思って今やってきたとこ!」

「なるほど、テニスか」


彼女はテニス部に所属していて、1年生ながらにして団体戦のメンバーにも入っている。


「試合近いんだね、頑張ってね」

「応援来てねー!あ、そう言えばさ」

「んー?何ー?」

「再来週から夏休みじゃん?」

「そうだね」

「みんなでどこか遊びに行こうよ!」


今年の夏は賑やかになりそうな予感がする。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る