第14話 榊原②
「なぁー、榊原ー」
「っ······なんですか、私急いでるんで」
睨まれて、俺の話を聞いてくれない状態を保たれたまま金曜まで来てしまった。
あれから毎日話しかけに行ったが、全てさっきみたいに無視されるか逃げるかされて、俺の心は折れかけていた。
「今日はどうでしたか?」
「ダメだった……やっぱり明日榊原の家まで行ってみようと思う」
「そうですよね……」
家に帰って報告する度に、ひなたは少しだけ不安そうな表情を見せて、すぐに明るい笑顔に切り替えて
「頑張ってくださいね」
「うん……頑張るよ」
ひなたが無理してくれているんだから、中途半端に終わらせる訳には行かなかった。
土曜日、電車に乗って、会社の最寄駅を通り過ぎ、30分ほどいった場所に、榊原の家はあった。
(以前タクシーに乗る時、部屋番号まで聞いていてよかった)
ロビーのインターホンで、榊原の部屋番号を入力して、呼び出しボタンを押してみる。
しばらくして
『なんで先輩がいるんですか』
不機嫌そうな声で、それでも前よりはトゲのない声音がスピーカー越しに聞こえてきた
「タクシーで送った時聞いたぞ……今日はお前と話がしたくて」
『なんですか!帰ってください!』
「頼む、話をしてくれ」
粘りに粘って、粘り負けした榊原は
『はぁ、わかりましたよ。ちょっとまっててください。着替えていきますんで』
私服に着替えて降りてきた榊原と2人で近所の公園に向かった。スーツ姿の彼女しか知らなかったから、少し新鮮な感じを覚える
「それで、なんです?話って」
ブランコにそれぞれ腰をかけ、榊原はブランコを前後に漕ぎながら聞いてくる。
「いや、なんでって、こっちが聞きたいよ」
「なにをですかー?」
「今週ずっと俺の事無視してきた理由とか」
「あー、でもあれは先輩が悪いんですよ」
「え、なんでだよ……」
だんだんと涙声になった榊原の声を聞いて、なんでとは言いつつも、理由を悟り始めていたときには、榊原は完全に泣き出していた。
次第に榊原のブランコは止まって
「……だって、私の事全然見ててくれなかったじゃないですか」
「うん……そうだな」
「そうだなじゃないですよ!もう……」
返す言葉が見つからずにしばらく沈黙した後、少し落ち着気を取り戻し、榊原は
「こんなこと、先輩に言ったってしょうがないですよね。」
「いや、まぁ、……うん、そうだな」
「でも、これだけは言わせてもらいますけど。」
おもむろにブランコから立ち上がった榊原は、俺の前まで来て、叫ぶ
「先輩のこと入社してからずっと好きでしたから!!!」
「そんな大学生より、私といた方がもっと楽しいし、先輩のこと色々知ってるし、他にも色々ありますっ!!!」
引いてきた涙をまた浮かべながら、榊原は宣言する。
「あと、これからも!先輩のこと好きですからね!!」
さすがに驚いて、聞き返してしまう
「え、これからも?」
「あたりまえじゃないですか!女子大生に振られた先輩を私が慰めてゲットです!」
「えー……」
「とにかく、明日から普通の私に戻りますから!だから明日からは普通の先輩でいてください!じゃあ帰ります!」
と、こちらの話を聞かないで走って行ってしまった。
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