本の中にそっと思いを閉じこめる――私もかつて、少女時代に「今というすばらしい時を封じこめておきたい」という思いをこめて、愛読している児童書の挿絵のページをじっと見つめていたことがあります。そこに描かれていたのは女神の絵でした。
きっとこの詩の少女も主人公のかけがえない記憶を託されたひとりの女神なのでしょう。変わりゆく時の流れの中で「変わらないままでいてほしい」と願う心は、人間の愚かな欲なのかもしれませんが、それだけに切実で真に迫ってきます。
侘介さんの詩人たるゆえんはすべてこの一作に結実しています。