第10話
今日も朝礼終了直後に月崎さんが僕のクラスにやってきた。
これで2日連続だ。また鈴田さんに用事があるのかと思って自分の席でうつむいていると、目の前に
「おはようございます、小野塚くん」
「お、はよう、ございます」
かろうじて挨拶を返す。
「今日の放課後、予定はありますか?」
これはやばい、何か分からないけどぜったい何か良からぬことがある。
断れ、用事があって無理だと言うんだ!しかし、彼女の目を見ると意志とは正反対の言葉が口から出た。
「あ、大丈夫です」
「それでは放課後、話しましょう。下駄箱で待っています」
彼女は有無を言わさぬ迫力でそれだけ言って教室を出て行った。
しばらく唖然としていたけど、我に返って周囲を見回すとクラスのみんなが僕のことを見つめていた。
特に右方向に強い視線を感じて見てみると、勝又くんがとてつもない形相で僕を睨みつけている。人間の眼球の白い部分ってあそこまで赤くなるのか。
耐えきれずに反対側に顔を背けると今度は鈴田さんと目が合った。彼女は口元を両手で覆いながら僕を見つめている。
・・・え、なにその乙女チックなリアクション?あなたそういうキャラじゃなかったですよね?
「小野塚くん、大丈夫?顔色悪いみたいだけど・・・」
横から声をかけられた。学級委員の
心配そうにしてくれている彼女に思わず全てを話してしまおうかと思ったものの、巻き込んではいけないと逆に決心がついた。
「網谷さん、ありがとう。なんでもないから大丈夫だよ」
それならいいんだけど・・・。と言いつつも尚も心配そうな顔で僕を見つめた。やはりいい人だ。
月崎世緒衣、来るなら来い!何度でも返り討ちにしてやる!!
※ ※ ※
放課後、下駄箱に行くとすでに月崎さんは待っていた。
「学業お疲れさまでした。それでは行きましょう」
彼女の言葉に僕は素直に頷いた。
その時、「月崎さん!」と不意に背後から誰かが彼女を呼んだ。怒鳴ったと言ってもいい声のでかさだ。
振り向くと勝又くんがこちらを睨んでいた。額から汗を流し、目は充血したままだ。
「お、俺も一緒にいっていいかなぁ?」
「ごめんなさい、ダメです」
彼の勇気を振り絞った一言を、月崎さんは間髪入れずに断った。
勝又くんは泣きそうな顔で僕を見つめてきた。ごめん、僕にもどうすることは出来ない。
彼の視線を背中にビンビンに感じながら校門を出た。
どこに連れていかれるのかとドキドキしながら彼女の後ろをついていくと、駅前のファミレス店に入っていった。ここは入り慣れている。良かった。
月崎さんと向かい合って座った。こうして見ると本当にやばい美しさだと思う。この人が柔道日本一だったのか・・・。
店員さんが注文を取りにきたのでとりあえず僕はドリンクバーを注文した。そして月崎さんは
「ハンバークセット、中華風ドリア、マルゲリータピザと網焼きチキンをお願いします」
え、そんなに?店員さんも少し驚いた様子だった。少ししてから彼女は「しまった」と頭を掻いた。
「パスタとドリンクバーを頼むの忘れた」
彼女のペースにはまったらダメだ。僕は先手必勝とばかりに切り込んだ。
「月崎さん」
はい?と彼女が僕の目を見つめた。思わず目をそらしそうになったが耐えて、一気にいった。
「今回の件て、
その瞬間、月崎さんの顔から表情が消えた気がした。
―――阿久井美貴
僕の中学時代のクラスメイトだった女子で、柔道部に所属していて、僕のことを苛めていた首謀者だ。
しかし彼女はもういない。
1年前に死んだのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます