5-9
食事フロアに入ると、そこは先程のダンスフロアの半数以下の人しか見えなかった。
ダンスをした後に食事をするのか、それとももう食事は終わったからダンスをしてるのか。それは分からなかったが、過半数が王子が行くところに金魚のフンのようについて行ってるのだろう。
「きー! なによ、あのぽっと出の女は! せっかく私が王子様に目をつけていただけるってところだったのに!」
「あらお姉様、それは私のセリフではなくて?」
「どちらも大して王子様は気にしてる様子はなかったですわよ、むしろ私の方がチャンスがあったんじゃないかしら」
「どうにしてもあの女が忌々しすぎるわ!! どこの貴族よ!」
「全くですわね」
シンデレラのことを言っているのだろが、最初からそんな下心丸出しで近づいても王子は三人の内誰も手に取ってくれるようには到底考えられない。
「ま、そんなことはどうでもいいわね」
三人は三人で罵倒し合いながらも、美味しそうな料理をたらふく食べているのだから、楽しいのだろう。ただのやけ食いかもしれないけれど。
道子はそんなことを考えながら大声で会話をし続けている少し下品な三人から目を離し、周りを見渡す。
そしてすぐに違和感に気づく。
「あの子ね……」
ドレスを身にまとっている人達の中で唯一浮いている赤い頭巾を被っている小さな女の子。
その子は自分が浮いてることにも気づいていないのか、それとも全く気にしていないのか目をキラキラとさせながら、ありとあらゆる食べ物を口の中に放り込んでいた。
道子が追ってきた何かが小さな女の子であったことに、まず人であったことに安堵しながら、同時に今回の犯人は遠くの方で食事をやめる気配がないあの子だということを確信する。
「あの子、まだ戻ってなかったのね……」
道子は呆れながらも思考を巡らせる。そして、ゆっくりと赤い頭巾を纏ったその子に気づかれないように背後へと近づいた。
真後ろに立っても気づかないなんて、そんなにこの料理は美味しいのかしら。
未だ食事を続ける目の前の少女を眺めながら、少女越しの料理を見ながらそんなことを考える。確かに少女の目の前に並べられている料理はとても美味しそうだ。肉の香ばしい匂いやらバターの香りも食欲をそそる。
ただこんなに高圧的に、道子的には高圧的に真後ろに立ってるのに気づかないのはさすがにおかしくないだろうか。
道子はため息をひとつ吐き出すと、手に持っていたシンデレラの布靴を振りかざし、躊躇することなく少女の頭目がけてそれを振り下ろした。
「痛い!」
パコーンという気持ちのいい音、そして一瞬の静寂の後頭巾の上から頭を抑えて叫んだ少女は、ようやく食べる行為をやめ、涙目になりながら道子の方に振り返る。
「お姉さん、何するの……」
「何するの、じゃないわよ。あなたこそ何してるのよ、赤ずきん」
「私のこと知ってるの!」
少女は涙目から一転、キラキラとした顔で道子を見上げる。コロコロ表情が変わる子だ。
この頃の年代の子の特技でもあるのだろうか。
「知ってるも何も、こっちも迷惑をかけられてるのよ……」
「私が? 迷惑?」
キョトンと疑問そうに首をかしげながらも、何故か嬉しそうに赤ずきんは椅子からぴょんと飛び降りる。
「ええ、そうよ。あなたこそ何してるの。どうして家に帰らないの?」
「だって家に帰ってもつまんないんだもん……」
赤ずきんは俯きながらボソボソとそんなことを悲しげな声色でつぶやく。
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