5-8

あの子は絶対に大丈夫。確信もないが間違いないそんな親心に似た思いを抱えながら道子はシンデレラを見送る。


「……さてと、私はどうすればいいのかしら」


街で随分とはしゃいでしまってだいぶ疲れてしまっている。ただ今回の目的はただ童話の修理をするだけではない。


この本に入るきっかけとなった人物を探さないといけないのだ。

道子は気持ちを切り替えるために軽く伸びをする。


「んーー……? あら、あれは……」


気を緩めていた視界の端で赤い何かが王城に向かって凄まじいスピードで走り抜けていった。


「あの子は……」


幾分かの違和感を覚えた道子はとりあえず赤い何かがなんなのかを確かめるために、王城に向かうことにした。



城の中に一歩足を踏み入れるとそこはまるで別世界だった。


シンデレラがレンタルしたドレスに負けず劣らずきらびやかなドレスを着たいかにも令嬢である容姿をした美女達。そしてそれを映えさせる黄金の壁に赤い絨毯。大きすぎるシャンデリアは入口フロア一帯を明るく照らしていた。


ここはまだ入口にすぎない。しかし制服を着ている道子はどうしても浮いてしまう。


「あらあなた可愛いドレスね、そんなの見たことないわ。どこで買ったの?」

「三平堂よ」


赤いドレスを身にまとい ヒールで身長をかさましして、道子を見下ろしながら話しかけてくる女性に道子はそう短く返す。

聞いたことない店の名前に困惑している女性を無視して道子はフロア内を見回した。


「左がダンスフロアで、右が食事フロアみたいね……」


扉の横に仰々しく立てかけられた看板のようなものを見て判断する。

さっきの赤い何かはどっちに向かったのか……。


道子は比較的距離の短い左手に見えるダンスフロアに入ることにした。

歩きながらも周りの様子を眺める。壁には歴代王の顔写真が描かれた絵が高そうな額縁に入れられて飾られており、最後の絵は一番鮮明にはっきりと描かれていた。


きっとこれが現王子だろう。次期王になるこの世界の女性が目をつけている人物。

確かに王子は王族という条件がなくても十分にモテそうな整った顔立ちをした。

絵に描かれているこちらに微笑みかけてくるような柔らかい表情も決して嫌味的なものではなかった。


「まあ私はタイプではないわね」


もし現実でこんな人がいても関わることは一生ないだろう。

そんなことを考えながら道子のダンスフロアへと続く扉を開けてその中へと足を踏み出す。


「凄い……」


ダンスフロアには入口フロアとは比にならないほどそれこそ何倍以上もの人がいた。

しかも女性は全員綺麗なドレスを着て、男性はビシッと決まっているタキシードを身につけてフロア内で踊っているのだ。

そんな光景をこれまで見ることも見る機会すらなかった道子はただただ圧倒されていた。


女性は目の前の男性と楽しそうに、もしくは王子と踊れず妥協してしまったことを悔やむながら踊る女性達。

目の前の女性とのダンスを幸せそうに楽しむ、もしくは王子やほかの男に目の前の女性を持っていかれないように目をギラつかせながら踊る男性。

その全ての光景が刺激的だった。


「あら、あれって……」


道子はそんな異様な空気を感じながら、フロアの中央の光景が目に入る。

そこには幸せそうに両方頬を紅潮させながら、時に笑いあいながら踊っている王子とシンデレラがいた。


二人は時が進んでいることも、周りに他の人がいるということすらも忘れて、ただ目の前の人に夢中になって、ダンスを楽しんでいるように見えた。


「私が思ってたいた以上に楽しんでるじゃないの」


道子はそんな光景を見てどこか誇らしい気持ちになりながら再度周りを見渡す。

今度は凄い格好をした貴族達を眺めるのではなくて、追いかけてきたはずの物体を探すために目を凝らす。


赤いドレスを着た女性は確かにたくさんいるが、見る限りでは頭の上まで真っ赤な人物はここにはいないようだった。


「となると、食事フロアのほうかしら」


道子は一通りダンスフロアを歩いた後、もう一度だけ満面の笑みで踊るシンデレラを眺めた後、ダンスフロアを後にした。

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