5-4
目を開いて、まず目に入ったのは目の前でビリビリに破れている布団の上で泣いている女の子の姿だった。
「ここって……」
周りを見渡してみると、そこは確実に屋内、しかも誰かの家だった。
「え……?」
道子の発した声に目の前の女の子は一瞬身体を震わせ、こちらをちらっと見て彼女の姿を視認すると、一気に壁の方に退いた。
「誰ですか!」
「それはこっちのセリフよ……」
「わ、私はシンデレラ……。ここは私の家だから……いや正確には私の家ではないんですけど」
シンデレラって本名なのかしら。いや、童話ってそういうものだったわね。
道子は自分が赤ずきんと呼ばれていた時の記憶を思い返しながら軽くため息をついた。
「そうなの……。私のことは気にしないでいいわ」
「い、いやそう言われましても……。突然目の前に現れたら……」
この子はなんだか……私に似てる。
道子はそんなことが一瞬頭によぎったがすぐにそれは違うと頭をふる。
「こんなに可愛いものね」
「可愛い? 誰がですか?」
「誰って……自覚がないの?」
目の前で目を泣きはらしているシンデレラは今まで見たことないくらい整った顔つきのした子だった。さらに先程から見せるしおらしい態度から嫌な感じもしない。
泣き腫らしている状態で、しかも化粧もしてない状態でこんなに綺麗なのだから、オシャレをすれば本当に綺麗になるに違いない。
「? 私の顔に何かついてますか?」
道子がじっとシンデレラの顔を見つめていたからか、彼女は小首を傾げてこちらを見つめる。
そんな仕草も女性である道子自身もドキってしまうほど愛らしいものだった。
「はあ……、まあいいわ。それでどうして泣いていたの?」
「そ、それは……」
道子のその言葉にシンデレラは顔を隠すように、俯いてしまう。そして少し間を置いたあと、ぽつりぽつりと話し始めた。
「ここに住み込みで働かせてもらってるんですが……。その……」
「あーそう言えばそうだったわね、ひどい嫌がらせを受けているのよね」
いくら童話を知らない道子でもそれくらいは合っているような気がする。本当にそれと最終的に目の前の女の子は幸せになるということくらいしか知らないのだが……。
「そ、そうです。それがどんどん酷くなって、私耐えきれなくなってて」
「そういえば、私はここにいてこんなに話していて大丈夫なのかしら? バレたらそれこそ大事にならないかしら」
道子は突然不安になり、声のトーンを落とす。
もしそのシンデレラをいじめているという人がこの家にいたら自分も酷い目に合うかもしれない。この期に及んでそんなことを考えている自分に嫌気がさした。
「大丈夫です。今日はあの方達にとって大事な日ですから……」
「大事な日?」
「今日の夜は王城で社交パーティが開かれるのです。そこで王子の目に入ってもらおうということらしくて……」
「あーなるほどね」
要するに王子、次期王に唾をつけておけば将来的に安定した、いやそれ以上の人生をおくれるだろう。そのための今日という訳だ。
「あなたは興味が無いの?」
「興味が無い訳では無いです。きらびやかな王室でパーティなんてそれこそ一生に一度参加出来るものか分からないものですから……」
「それじゃこんな所で泣いてないであなたも行けばいいじゃない」
「私は留守番を任されているので、ここから離れる訳には……。それにあんなすごい所に行けるドレスも持ってませんし」
シンデレラはさらに俯いてしまい、その顔は長い髪で隠れてしまった。
「あなた……」
道子はそんなシンデレラを見て、どうにかしたいと思い始めていた。それはやっばりどこかで自分を重ねていたからかもしれなかった。
「こんな時まで気にしてどうするの、今日くらい家を抜け出してもバレないわよ」
「で、でも……」
「そうね……あなたお金はあるの?」
「え!? いえ、そんなに持ってないです! 本当に少額で!」
シンデレラは顔を振り上げ、首を全力で横に振る。その顔は怯えているようにも見えた。
昔お金に関してなにか酷いことでもされたのだろうか。
「別にとったりしないわよ……。でもちょっとは持ってるのね」
「本当に少しです。お給金も少ないので……」
「そう、じゃあ、とりあえず……」
道子はちらりと窓の外を見る。今は夕暮れ、暖かい柔らかい日差しが部屋の中に差し込んでいる。
「決めたわ」
「え?」
「街に行くわよ」
その道子の一言にキョトンとしているシンデレラの手を掴むと、座り込んでいた彼女を立たせた。
今日の自分はいつもよりさらに積極的になっているかもしれない。こうやっている時も図書館はどうなっているか分からない。
そんな焦りもあったのかもしれないか、なにより今は目の前の女の子を何とかしてあげたい。
そんな気持ちが道子の行動力につながっていた。
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