幕間
幕間3
悪魔は娘と母親が離れるにはどうすればいいか必死に考えた。悪魔は娘と同じように母親のことも好きだった。
ただそれ以上に悪魔は娘のことを愛していた。それ故に悪魔はどんどんと狂っていってしまった。
悪魔が考えの果てにいきついた結論は、母親にありとあらゆる苦痛を与えるものだった。
言葉での罵倒、娘への否定的な言葉はかけない。母親の存在定義を否定するかのような思ってもいない、いやもしかしたら心のどこかでは燻っていたのかもしれない言葉を娘の母親に毎日毎日浴びせる。
それでも母親は悪魔からの攻撃を耐えていた。耐えて娘を愛で続けていた。
悪魔は再び考える。
次に行ったのは暴力だった。
暴力、娘には悟られぬように娘に見えるであろう場所には傷をつけなかった。
悪魔は娘が自分だけを愛してくれるように、自分だけを見ていてくれるように母親を痛めつけた。暴力、言葉あらゆる手段を用いて母親の心と体を傷つけた。
しばらく心身をボロボロにしながらも耐え抜いていた母親であったがついに心の糸が切れてしまう。
娘を置いて家を出てしまったのだ。娘に謝りながら、悪魔を恨みながら、泣きながら家を出ていった。
しかし娘にとってみればそんな事実があったことを知らない。突然自分を捨てて家を出てしまった母親のことが信じられなかった。ただただ悲しかった。
悪魔はそんな深い傷を負った娘にこんな言葉をかける。
「言っただろう? 他人は信用出来ない。人は信用しては行けないんだよ」」
娘は悪魔からかけられた言葉にこう返す。
「お母さんは他人なんかじゃないよ。お母さんだもん」
「君のお母さんだって、血の繋がっているただの他人さ。どれだけ愛していたとしても、君の元から離れて行ってしまうんだよ」
その言葉にまた娘は深く傷つき、泣きじゃくる。
「だから君は僕だけを信じればいい。僕だけを、愛すればいいんだ」
娘にはもう悪魔の言葉しか頭に入ってこない。他のことは何も考えられない。それほどまでに娘は傷ついていた。
それからはより一層娘は悪魔の言うことを信じた。悪魔にすがりつくように、依存するかのように悪魔の言うことをただただ真っ直ぐに信じて育った。
そんな娘を見て悪魔は酷く優越感を覚えていた。
そしてそれと同じくらい罪悪感も抱いていた。
その罪悪感の向き先は家を出ていってしまった母親に対してなのか、それとも自分の行いのせいで深い傷を刻み込んでしまった娘に対してなのか、それすらも悪魔は分からなくなっていた。
悪魔も自分を愛してくれる、依存してくれる娘に心は満たされていたのだ。
悪魔は自分を正当化するように娘の愛情を受け入れ、それ以上に娘を愛した。
娘も悪魔しか信用せず、悪魔だけにすがりつき体と心はどんどんと成長していった。
その一方で悪魔の体は日に日に薄れいっていることに娘は気づいていた。
悪魔もそのうち自分の元から消えてしまうかもしれない、そうなったら自分はどうやって、何を信じて生きていけばいいのか。そんなことばかりを考えて不安に押しつぶされそうにもなっていた。
そうしてより一層ムスメは悪魔に依存した。悪魔の言葉に依存していた。
何も真実を知らないまま娘は自分を捨てた母親ではなく、自分のことをただひたすらに愛してくれる悪魔に依存し続けた。
何も真実を知らないままに……。
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