3-7
光から抜けると、目の前には森の中にあるのが不自然なほどに綺麗で豪勢な館が建っていた。
「もう……むちゃくちゃね」
道子は頭を抱えながら、大きな一室であろう窓に光が反射しているところを眺めた。
「きっとあそこにいるのね」
窓に映っている影は明らかに人間のものではなかった。
そしてその影であろう首の部分がたまに窓から消えているところを見ると、床にご馳走を置いて食べているのだろうか。
せっかくのご馳走をもらっても床において食べてるんじゃ意味がないんじゃないかしら。
道子は一つ大きくため息をつくと、重い一歩を踏み出し館の中に入っていった。
物語が崩壊しなければいいけれど……。
道子は自分がそんなことを考えていることに驚いていた。
「中まで豪勢なのね」
館に一歩踏み入れた瞬間道子の周りに光が溢れ出したような錯覚に陥った。
それほど館の中は明るく、周りの装飾品は輝いていた。
そして奥の方からは、何やらどんちゃん騒ぎをしている声が聞こえてきていた。
「この奥に絶対いるわね」
道子は恐る恐る歩を進めると、甲高い歌声、野太い笑い声の大きさが増してきていた。
それが近づくたびに無意識に道子の鼓動も高鳴る。
しかし今のところ、ロバが誰かに裏切られたということはなさそうだ。
それとももうロバはこの館を飛び出した後なのだろうか。
道子は悪い考えを消そうと、頭をしきりにふると光と声が漏れ出している扉の前で立ち止まった。
「とりあえずノックをしてはいるのが礼儀なのかしら」
動物に対しての礼儀など知らないし、今まで考えたこともなかった。
道子は大きく息を吸い込むと、それを飲み込む。
何も入っていない胃に空気が送り込まれていく気持ち悪い感覚を味わいながら、扉を二回ノックした。
その瞬間、扉の向こうの空気が変わったのを感じる。笑い声は一瞬で静まりピリピリとした雰囲気が扉を挟んでいるのにこちらまで伝わってくる。
こんな空気になるくらいならノックなんてせずに、勢いのまま乗り込んでおけばよかった。
それに道子は忘れていた。物語に出てくる彼らは頭があまりよくないのだ。泥棒が入ってくる時だって平気でその泥棒がノックをするようなものだと、本気で思っている人たちなのだ。
道子は一気に重くなったように感じる扉をゆっくりと開ける。
扉が開けば開くほど、緊迫した空気は漏れ出してきてその空気に冷たささえ覚える。
扉を開ききり、もう後に引けない道子は思い切り部屋の向こうに飛び込んだ。
まず目に入ったのは、机の上に立っていた鶏の目を見開いた顔だった。とさかはゆらゆらと左右にゆっくりと揺れている。
その後、犬、猫の鶏と同じように驚いた顔が目に入る。
そして最後にロバの驚いたような表情から笑顔に変わる顔が目に入った。
道子はロバがその場にいることにひとまず安堵した。
「お嬢さん! どうしてここが分かったんだい!」
道子が声をかけようとする前にロバが真っ赤な歯茎をむき出しにした満面の笑みで、近づいてくる。
ロバはだいぶ興奮しているようで、笑いながらつばを飛ばしそれが道子の足元に飛び散っていた。
「とりあえずそれ以上近づくのはやめてね」
「どうしてだい! 感動の再会じゃないか! もっと語り合おうよ!」
ロバは道子の忠告など気にする様子もなくさらに一歩道子に詰め寄る。それに合わせて道子はロバから一歩遠ざかった。
「もしかしてその方がロバさんが話をしてくれた方ですか!」
「そうなんだ! まさかこんなに早く会えるなんて考えてもみなかったよ!」
猫の一言でロバは道子に背を向け、身振り手振りで道子と出会った経歴を話し始めた。
「ロバさんロバさん、その話もう三回目ですよ」
「だってお嬢さんなしでは、僕は外に飛び出すこともなかったし君たちに出会うこともなかった! 何度話したって足りないくらいだよ!」
ロバは道子が現れてから常時興奮しっぱなしだった。とても汚いわら小屋の中で出会ったあのロバと同じロバだとは思えなかった。
パッとみ全員和気あいあいと話していて、何ら問題がないように思える。
それではなぜ物語は完結していないのだろうか。
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