第5話 納税センター4

今日の納税を終えて、美希子はシャワールームにいた。身体に注がれる温水を浴びながら、今日の受給者を思い出していた。最初の受給者のマサオは終始緊張したまま、美希子のなすがままにされていた。納税が終わった後は荷物を持ってそそくさと部屋を後にした。休憩時間の後に来た受給者は、50過ぎの壮年の男性だったが、こちらは1人目と違って部屋に入ってきた最初から饒舌に話し続けるお喋りだった。いくら男性の話を聞いてやったところで納税額が軽減させるでもなく、美希子たち納税者にとっては何の役にも立たない。例えて言えば、タダでホステスをやらされているようなものだった。こちらが口を挟む余地を与えまいとしているかのように話し続ける男性に鬱陶しさを感じながら美希子は納税を始める隙を窺っていた。

ようやく話の切れ目に納税を始めることが出来た。すると男はそれまでの威勢は急速に萎んでいった。結局納税もほんの少しの間で終わった。勢いを無くした彼は「いや、あー」とか、「もう50過ぎたんで、歳かなあ」とかもごもごと何か言っていた。

まだお時間がありますよ、という美希子の言葉に、もういいです、と多少苛立ちの混じる声で返して、男は納税ルームを出ていった。

やれやれ、と美希子は思った。今日の受給者はどちらも余裕のない男たちだったな。ここ数時間の納税の時間を思い返していた。納税の受給者になる男性のタイプについては美希子もだんだん分かってきてはいたので、特に不思議ではなかった。もう少し素直で虚勢を張らないような方が印象もいいしこちらとしても嬉しいんだけど、と思わなくもないが。でも、それが難しいから受給者として私の前にいるのだろうな、と思い返した。

シャワーを終えて、体の水分を拭き取り、服を着て隣の化粧室に移動した。簡単にメイクをしたのち、納税センターの女性のところに終わったことを告げにいった。

「どうもお疲れ様でした。特段変わったことはございませんでしたか?」着た時と同じ若い女性職員が笑みを浮かべて言った。

「はい、普段どうりです」

「では、こちらの退館時刻を書いて、ご署名をお願いします」女性の差し出した紙に鉛筆で署名して、美希子は納税センターを後にした。

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