第4話 納税センター3

ふいに、ベット脇に置いてある子機が鳴った。

「一人目の方が入室されますが、ご準備はよろしいですか?」

女性からの確認に返事をし、美希子は立ち上がった。すぐにドアをノックする音がした。美希子はそのままドアの方に歩いていった。

「こんにちは、どうぞ」

ドアの外に立っていたのは、中肉中背で短髪の男性だった。ひどく緊張しているのか、額や首筋に汗が出ていた。

男性は顎だけ動かして短く会釈し、部屋に入ってきた。ひき結んだ口を少し動かして、マサオです、と自己紹介した。

「ユキです。今日はよろしくお願いします」

美希子が挨拶すると、マサオと名乗った男も小声で「お願いします」と答えた。

マサオというのは本名だろうか、それとも仮名だろうか。美希子は初めて納税した時に使っていた仮名を何となく使い続けていた。納税の際、納税者と受給者どちらにも仮名を使うことが認められている。納税者の場合、ほとんどの人が仮名を使っていると聞いたが、受給者はどうなんだろう?

マサオはなおも引きつったままの顔で突っ立っていた。今日が初めての受給なんだろうか?年齢的にはあり得るかもしれないなと美希子は思った。そのままでは進まないため、美希子は荷物を置いてベットに腰掛けるよう促した。

「そっちの棚に荷物置けますよ」

マサオは言われた通りに荷物を下ろして美希子の隣に座った。

さて、どうしようと美希子は考えた。過去には同じように極度に緊張した受給者が言葉も発せずに突然しがみついてきたこともありかなり不快だった。ここはやんわりと先手に回りつつ出来るだけ楽に終わらせたいところだ。

「初めての受給なんですか?」と美希子は聞いた。

「あ、そうですね。納税センターは初めてです。」公共ライブラリーを使っていたということだろうか、マサオはそのように答えた。

「緊張されてます?」美希子は微笑みながら尋ねた。

「いや、そういうわけじゃないんすけど。」マサオは余裕があることを見せたいのだろうか、続けて「ユキさんが思ったよりも美人なんでドキドキしちゃって。こんな郊外の納税センターなんて大したことないと思ってたんすけどね」と冗談めかして言った。

美希子は、30も過ぎた受給者が上から目線だな、と内心思ったが、笑顔をつくってありがとうございます、と言った。早くはじめてしまおうと思って、「では始めましょうか。わからないこととか、身体の違和感とかあったらすぐ言ってもらって結構ですから。」と言ってバスローブを脱いでテーブルに置いてある器具を手に取った。マサオは引きつった顔で、え、あ、とか言いながら言われるがままに横になって、美希子の言われるがままになった。目は美希子の胸元に行き、股の間に泳いだ後そこから逃げるようにまた胸元に帰ってきて、腹と胸の中間あたりに落ち着いた。

「では、これから納税1時間、よろしくお願いします。」

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