第2話 納税センター1
部屋に入ると、納税センターの職員が向こうに見えた。20代前半の若い女性。前回までと同じ職員だ。美希子が席に着くと、職員の女性はにこやかに話し始めた。
「本日はご苦労様です。豊田さんは今年度始めての納税ですね。」
「はい」
「納税方法はこれまでと同一でよろしいですか」
「ええ、そのつもりなんですけれど」
「制度に特段の変更はございませんので、これまでと同様のやり方で結構ですよ」
規則ですので、といって彼女は一通りの説明や同意事項についての確認を行った。美希子にとっては何度も聞いている話なので、特に注意はせずに聞いていた。些細な変更点としては、備品としておいてあるウェットティッシュがパラフィンフリーになったことや、器具のメーカーが変更になったことなどがあった。
「あ、メディカルチェックの結果はお持ちいただいていますか?」
「はい」美希子は鞄を開けて、病院でもらった茶封筒を差し出した。
「ありがとうございます。特に問題はありませんね」女性は微笑んで書類をクリアファイルの中に収めて、説明を再開した。
この若い女性の職員は納税しているのかな、それとも免除申請の目処が立っているのだろうか。美希子は規定の説明を読み上げる女性職員の声を聞きながらぼんやり考えた。そっと指元をみたが、指輪はしていないようだ。もちろん、職務の性質に鑑みて、そのようなものは事前に外しているのかもしれないけれど。
「何か質問はございますか」
「いえ・・・、大丈夫だと思います」
「では、こちらの納税同意書にサインをお願いします。」女性職員は書類にボールペンを添えてこちらに差し出した。「あちらの更衣室で準備していただいて、20分後からお願いいたします」
同意書にサインを終え、美希子は荷物を持って更衣室に向かう準備をした。
ふと思って、美希子は書類を整理している女性に声をかけた。「あの、」
「はい、なんでしょう」女性職員は手を止めてこちらを見た。
「今回の納税はどんな方なんですか」
女性はクリアファイルの中を探した。「ええっとそうですね、豊田さんは、今回は30代後半と、50代の方をお願いしようと思います」
何かありますか?と聞かれたので、いえちょっと聞いただけで、と答えて、美希子は席を立った。
いつもの更衣室で着替えて、備え付けのバスローブを羽織った。入室した側と反対側のドアか更衣室を出た。更衣室を出た女性たちが寒くないように暖かめに設定された廊下を歩いていって、指定された「納税ルーム No.302」に入っていった。
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