納税の義務

真綾

第1話 課税通知書

ポストを見てみると、一通の封筒が配達されていた。


「豊田美希子様」


自分の名前が書いてある封筒を見つめる。封筒の表面には「課税決定通知書」、「重要」と書かれてあり、強調するように四角で囲まれていた。


部屋に帰ってから封を開けた。

「今年度の課税決定について」、「(重要)ご確認ください」、「納税できない場合について」、「納税にあたり準備が必要なもの」などの書類が入っていた。美希子はしばらく書類を確認したのち、もう一度畳んで封筒に入れた後、夕飯の支度に戻った。


夫の和夫が帰ってきて二人で夕食を食べた。

「今年度の税金きてたわ」

和夫はわずかに表情を動かしたように見えたが、何も感じていないような表情を作って返事をした。

「ふうん、どれだけだって?」

「隔月1回で、年末と年度末に2回よ」

テレビの方に顔を向けたまま、ことさら無関心そうに聞いてきた和夫に美希子は答えた。「来週暇だから1回目行ってくるわ」

和夫はそれに直接答えず、「ごちそうさま」と行って席を立った。


数日後の週末、多分今日あたりかなと美希子は思っていたが、案の定明かりを消してベットに横たわってから、和夫の手が伸びてきた。納税の前はいつもそうだった。美希子は面倒だと思う時もあったが、夫の心情を考えると無下にもできずいつも応じていた。特に言葉を交わすでもなく、執拗に求めてくる夫に応えながら、来週納税のために税務署に行くことを考えて、美希子はちょっと憂鬱な気分になった。


火曜日、朝食を食べ終わって和夫を見送る時に、「今日税務署行ってくるから」と美希子はいった。

「ん。」

「ご飯何がいい?」

「今日会社で長引く会議あるから、いらない」

「わかった、じゃあいってらっしゃい」

美希子は夫を送り出すと、税務署に行く支度を始めた。シャワーを浴びた後服を着替えた。替えの服をバックに詰めて、美希子は「北税務署・第二納税センター」への道順を調べて、昼過ぎに出発した。


税務署で来訪を告げると、そのまま第二納税センターに案内された。周りには自分と同じような女性が数人ソファに腰掛けて呼ばれるのを待っていた。皆思い思いのことをして自分が呼ばれるのを待っている。多くは美希子と同じくらいの歳だが、たまにまだ20代と思われるような女性が混じっていることもあった。


「豊田様〜、豊田様〜」


係の人のコールに従って美希子は部屋へと入っていった。



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