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しばらくぼーっと黒髪黒瞳の美女マリエルに見とれていたバザックは、はっとしたように叫んだ。
「そこの女! もしかして魔術師なのか!? だったら、マティアスを成敗してわたし達を解放してくれ! 褒美にわたしの愛妾にしてやるぞ!」
あまりの発言に、マティアス達が凍る。初対面なのにこの言いぐさ、非常識もここに極まれりだ。
「うぜえ、キモいんだよ、クズ。この期に及んで性欲丸出しとか猿かよ」
マリエルが嫌悪を隠さず吐き捨てると、バザックと取り巻きの男達はぽかんとした。ちなみにアマンダは、マリエルと一緒に現れた金髪金瞳の男性ユーリックに見とれたままだ。
「相変わらずマリエルは口が悪いな」
フレドリクが思わずといったように苦笑する。
「マリエル、それじゃ猿に失礼だ。猿だってもっと分別がある」
ユーリックに懇々と説かれて、マリエルはそうね、と鼻を鳴らす。
「女ぁっ! 王太子たるわたしに対してクズとは無礼千万!」
「クズにクズと言ってなにが悪いのかしら? それに、わたしはルーシエ以外の人間の命令など聞く義理などないの。勘違いも甚だしいわ」
「なんだと! わたしの愛妾にしてやると言ってるんだ、これ以上もない褒美だろうが!」
「こんなアホの愛妾なんて、なんの罰ゲームよ。唯一の取り柄の顔も、それほどのことはないし」
確かに、同じ金髪でも神々しいまでの美貌のユーリックとは雲泥の差だ。
しかし、遠慮のないマリエルの言葉に、マティアスは思わず笑ってしまう。
「……闇の精霊王にこんな口の聞き方をきくなんて、ある意味勇者だな。全然羨ましくないけど」
「闇の精霊王!? まさか、こんなところになぜ!」
感心したように言ったアレンに、取り巻きの魔術師が反応する。
「ああ、それはね、契約主のルーシエを害そうとやってきた悪者達を排除するために、わたし達二人はここに残ったんだよ。ちなみにわたしは、光の精霊王のユーリックだ」
「嘘だ! ただの人間が、複数の属性の精霊、それも精霊王と契約できるわけがない!」
「ルーシエはただの人間ではないが? それに複数の属性の精霊と契約できる人間は稀にいる。魔術師だったのに、なぜ知らない」
侮蔑の表情でユーリックが取り巻きの魔術師を見やる。するとバザックが叫んだ。
「精霊王などと大嘘をつきおって、
その瞬間、ユーリックとマリエルの手のひらから金と黒の巨大な力が解き放たれた。派手な音を立てて、バザック達の前の床が大きく抉れる。
「ひいっ!」
「城を壊さないでくれ……」
嘘つき呼ばわりされて彼らが怒るのは分かるが、こちらにまで被害を受けるのはやはり避けたい、とマティアスは苦笑いした。
「いや、馬鹿が精霊に対して嘘つきなどと言ったから、ちょっと懲らしめただけだよ。一応配慮はしている」
「わたし達が本気でかかったらこんなものでないのは、マティアスも分かってるでしょ?」
「……まあ、分かっているけどね」
バザック達を見ると、精霊王達の圧倒的な力を目にして大きく震えている。取り巻きの中には失禁した者もいるようだ。
どうやら、馬鹿もようやく目の前にいるのが人ならざる者であると納得したらしい。
「……そ、そうだ、精霊なら、名を奪えばなんとかなる! ユーリック、マリエル、我が声に従え!」
馬鹿な魔術師が、はっとした後に叫ぶ。……だが、なにも起こるわけはなく、二人の精霊王の冷たい視線が魔術師に注がれた。
「な、なぜ、僕の言うことを聞かない!」
「……馬鹿だな。精霊が真名を公に名乗るわけないだろう。……もっとも知ったところで、格下の者が呼んだら八つ裂きにする精霊もいるだろうね」
「精霊の加護をまったくなくした者が精霊王を操ろうとするなんて、愚弄もいいとこだわ」
すると、取り巻きの魔術師がぽかんと口を開けた。
精霊の加護を受けずに、魔術は使えない。
この男の未来は暗そうだなとマティアスは思った。……同情する気はまったくないが。
「なにを……」
「あんたはルーシエの兄である、マティアスを殺そうとした。そのことで僅かながらに協力していた精霊からも見放された。その精霊も、王から睨まれてまであんたに協力してやる義理もないしね」
取り巻きの魔術師を断罪するかのように指さし、マリエルは冷酷に告げる。
「そ、そんな、馬鹿な……っ。僕についていたのは風の精霊だったはずだ! 光や闇属性ではない!」
「本当に馬鹿だな。先程、
魔術師ならば、こういった話題にも興味があるだろうに、残念ながらこの男にはかけらもそれがなかったようだ。
しかし、こんな有名なことを知らないとはお里が知れる。……まあ、それは他の馬鹿者共もだが。
「ルーシエは全属性の精霊王の契約主よ。世界最強の魔術師を手放すなんて、愚かもいいとこ。彼女はあの容姿だし、世界中の国から引く手あまたよねえ」
ようやくルーシエの重要性が分かりはじめてきたらしいバザック達は、愕然とした顔で金と黒の精霊王達を見つめた。
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