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「従妹姫……? まさかルーシエなどがイスファと縁続きなわけはない」


 またもルーシエを貶しているバザックにフレドリクが不快そうに眉を寄せる。


「イスファの王太子であるわたしが言っているのだ。間違いない。ルーシエの母は現国王の妹で、元王女だ。王族なのになぜそんなことを知らない」

「嘘だ! 国同士の結婚ならなぜ王家に話が来ない! 無礼であろう!」


 王妃にも公爵家にも失礼なことをバザックはわめいた。……これを聞いたら王妃は泣くだろう。


「それは、ローゼス公爵家の方が現王家よりも血の正統性は高いと周辺諸国に思われているからだよ」

「馬鹿な! 適当なことを言うのは許さんぞ!」


 既にバザックの中では貶めていい存在なのか、アレンにまで噛みついている。第二王子といっても彼は正妃腹なのだが。無知というのは恐ろしい。


「適当どころじゃなく事実だよ。ローゼス公爵家の初代は、四代前のカルロス王。体が弱くて退位して公爵位に着いたけれど、帝国から嫁いできた皇女との間にその後子を設けたことで、当時その子に王位返還をと国は沸き立った。それはそうだよね。現王家は側妃どころか愛妾腹の王子の家系だしね」

「ぶ、無礼な! 愛妾腹なのは我が王家ではなく、ローゼス公爵家の方だろう!」


 顔を真っ赤にしてバザックが怒鳴るが、取り巻き達と男爵令嬢は、たった今聞いた事実にうろたえているようだった。有力貴族出身である取り巻き連中が知らなかったのはもう馬鹿としか言いようがない。バザックはまったくの問題外だが。

 こんな愚かな王族が出ると分かっていたら、ローゼス公爵家としても王権を譲ったりはしなかっただろう。国を正しく導くことができると信じて受け渡してみれば、とんだ獅子身中の虫がいたものである。


「なぜ、こんな国家の根幹に関わることについて他国の王子達の前で嘘を言わないといけないんだい? あと、わたしもじきに王太子として冊立さくりつされる予定なのだから、第二王子だと侮るのはやめてくれないかな。いったいどちらが無礼なのかね」

「……っ!」


 それを聞いて、バザックが悔しそうに唇を噛む。さすがに他国のことまで口を挟むのはまずいと学習したらしい。


「……話の続きだが、なぜ周辺国が即この国の建国を認めたと思う」

「おそらく金でもばらまいたのだろう! ローゼス公爵はずる賢いからな!」

「馬鹿だな。そんなことをわざわざしなくてもいいことは、さっきの話を聞いていれば分かることなのだが」

「貴様ぁっ、馬鹿とはなんだ! 無礼討ちにしてくれる!」


 傍観していようと思っていたマティアスだが、ついつい口から零れてしまったようだ。案の定バザックが噛みついてくる。しかし、フレドリクはそれを無視して続けた。


「帝国の血を引く公爵家をオランディア王家に代わるものとして周辺国が正式に認めたということだ。愚かな王太子が一男爵令嬢にたぶらかされて、国王の決めた恩義ある婚約者に下らぬ難癖を付け、国外追放などという大罪にしたことで、オランディアは身分制度を疎かにする国と判断された。以後、他国からオランディアに縁組みする国はない。……もっとも次代があるのか分からんがな」

「なんだと! 無礼なことを言うな! それにあの女狐にそこまでしてやる価値はない! その判断が間違いなのだ!」


 ここまで説明を受けていて、ことの重大性に気づかないとは底なしの愚か者だな、とマティアスは変に感心してしまった。

 他国が縁組みしたがらないのは当たり前だ。嫁してきた王女がルーシエのように勝手に国外追放されたり、処刑されたりするかもしれない愚かな王族のいる国なのだから。



「……分かってたけど、ほーんと、ムカつくわー。こいつ、手足の一、二本もいじゃっていいかしら?」

「やめときなさい、マリエル。うるさいし、後処理が大変だよ?」


 涼やかだが、辛辣な声がしたかと思うと、唐突に黒髪の美女と金髪の青年が断罪の場に現れた。その人ならざる美貌にバザック達は息を呑む。


 ──ルーシエに価値がないと思っているのはバザック達だけだ。それがどんなに愚かなことなのかを身をもって知ればいい。

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