第5話 ゲームの続きなど

状況把握。

 学校の構造としては、教室棟と特別教室棟がL字型に繋がっていて、L字の短辺の方特別教室棟の2階の端に部室がある。


 部室の中にいるのは4人。 被害者の稲田、スカートが半分めくれているが女子的にセーフなのか? 探偵の糸魚、被害者の目の前で凶器を見つめる明らかに怪しい人。 糸魚の助手の升川、お前、最初俺を犯人扱いしようとしただろ。 警察の松笠、そういう強引なところが女子に嫌われることに繋がるのだ、何とは言わんが。なお、僕の経験則である。


 部室の外メタい部分に1人。まだ参加していない紫、稲田さんのことを考えると救急隊員をやって欲しいところだが、そうなると犯人は僕か松笠になる。くっ、ここは稲田(の尊厳)を諦めてもらうしかないか。


「ピーポーピーポー。」

外で救急車のがする。これは最悪の展開の予感。部室のドアが閉まり、そして勢い良く開く。

「救急隊員です!患者はどこに!」

男子3人は黙って稲田さんを指す。

紫さんはそこまで行き、稲田さんを起こす。

「心肺停止、意識ありません。搬送します。」

良かったな稲田さん。これでやっと動けるようになる。僕は一歩負けに近づいたわけだが。

 稲田さんの退出後、僕と松笠の対決が始まった。女子2人は外で観戦か。

 先手は松笠。


「えー、あなたは?」

「探偵を営んでおります糸魚川と申します。こちらは助手の升川です。」

「助手の、升川です。」

「なるほどね。それで、第一発見者はどちらですか?」

「悲鳴が聞こえたので駆けつけてみると、稲田さんが倒れていました。拙者が第一発見者です」

「悲鳴が聞こえたとき、あなたはどこに?」

「教室棟2階の廊下を歩いていました。」

「アリバイは?」

「ありません。」

「まあいいでしょう。それで、すぐにこの…特別教室棟2階の一番奥にある教室に、駆けつけた訳ですね。」

「いえ、違います。拙者が歩いていたのは教室棟の中心辺りで、向いていた方向は特別教室棟とは逆でした。悲鳴は聞こえても、どこからの音なのか分からなかったのです。なので、一つ一つ教室を確認しつつ、ここまで来ました。」

「それに要した時間は?」

「10分弱です。」

「なるほどね。それで、升川さんは悲鳴を聞いていましたか?」

「いえ、聞いていません。というか、僕は教室棟2階にいたのですが、先生とは別行動でした。」

「先生というのは?」

「そこの、糸魚川先生です。」

「ほう、助手はそういっているがね。」

「くっ。嵌められたか。」

 文芸部の全員が1人に対して何かしらの悪感情を持っているとき、「嵌める」という現象が起きる。

 なぜか登場人物が全員、1人に対してはじめから疑いを持っていたり、実は自分の味方役の人が相手役と顔見知りの設定が出来ているとか、など。

 俄然やる気が出てきた。絶対勝ってやる。

「ほう、嵌めるとは?」

まずい、口に出していたか。それと松笠、口が笑ってるぞ。

「いえ、何でもありません。升川くんは3階と2階を間違えたのでは?」

「いえ、ここに来るまで階段やエレベーターは使わなかったので、2階で間違いないです。」

「だそうだが?」

「拙者としてもこんなことは言いたくないのですが、升川くんは嘘を吐いています。松笠さん。」

「なるほど……そう言えば、うちの部下に升川という奴がいてな、」

「……」

いや、それは卑怯だろう。

「千歳くんはそいつの息子でな。幼い時からよく知っているのだよ。少なくとも嘘を吐くような人間でないのは確かだ。」

「……」

「糸魚川さん。あなたは本当に2階にいたのですか?」

「……」

僕には打開策が浮かばない。となれば、甘んじて犯人役を演じるしかない。

「すいません、拙者がやりました。議論に気を入れすぎてかっとなってしまい。つい。」

「そうか。自分が罪を犯したことはわかっているんだな?」

「はい。」

僕は松笠に連れられて、外に出る。情状酌量とか認められないかな。

そう思いつつ、僕は部室の外に出た。



「僕、皆になんかしたか?」

部室に戻ってすぐ、僕は皆にきく。

「あれ、一人称“拙者”じゃないのか?」

松笠が茶化すが気にしない。

「先輩の刺青のことですよ。それと何で私のパンツ覗かないんですか。わざわざスパッツ穿いたってのに。せっかく見えそうで見えない位置にセッティングした私の苦労はどこいったんだよ。」

……稲田さんは少し性格が悪い。頻繁に僕をからかい、僕が反応しないのを見てつまらなそうな顔をする。ごめんな、つまらない人間で。どう

「愛子、それはちょっとはしたないよ。」

と、紫さん。いつも通り奥ゆかしく美しい。はしたないなんて死期が迫っている単語を自然に使うとは、凄いの一言に尽きる。

「松笠先輩から聞いたんですけど、糸魚いとい先輩、1人でSFじみた経験をしてきたらしいですね。」

升川が言う。こいつは…とても運動部に向いていると思う。サッカー部にいそうなタイプだ。

「ああ、皆、僕の凄い経験に嫉妬してるってことか。それでさっき僕を嵌めたんですね。」

「「「そういうことです。(だ。)」」」


 僕は話す。刺鯖のこと、アンカーのこと。……

 話してみたところ、僕がこの一連のことに関してほとんどなにも知らないことに気づいた。


午後5時

 僕の話やら質疑応答やらが終わったのが5時。その後は全員で話し合いを始める。議題は文芸部で出版する雑誌についてだ。

 文芸部で2年に一度出版する雑誌、名前は工山club。あまり格好いいネーミングではないが、変更しようにもより良い名前が見つからないのでどうしようもない。文芸部の部員全員が何かしらの文章を一作書き、載せることになっていて、僕は去年から書き貯めていた宇宙ものの連続ショートショートを載せる。内容は推して知るべし。というか普通に理系の高校生の友達に読まれると平均的な悶絶するような文章だ。

 紫さんと高1の2人は普通に文章を書くらしいが、松笠は漫画を描くという。大変だろうが、頑張れ、松笠。


帰宅時

 6時半、最終下校時間のかねが鳴るまで話し合いをして、帰宅。夜道を歩いていると、いつもの街灯の下に刀坂さんが立っていた。長い話は無く、立ち話で済ませた。具体的には、幾つかの指示を貰った。

 曰く、基本的な能力の発現くらいは出来るようにしたほうが良いが、それには少し時間を要する。しかし、長い間瞑想をしていると自然と使えるようになるらしい。

 そのため、夜中にひとりで座禅を組んで欲しい。また、使えるようになったら連絡して欲しいとのことだった。


 連絡するかはともかく、能力が使えるようになれば嬉しい。僕は夜になったら座禅を組んでみようと思った。



午後7時

 帰宅。玄関先にいる僕に向かって、台所の母さんが話しかけてくる。


「ずいぶん遅かったわね。なにかあったの?」

「うん、部活が長引いちゃって。」

「そう。例の…なんだったかしら…文芸部の雑誌?」

「うん。その事で話し合いをしてたら時間がかかって、」

「そういうことね。それと、もうすぐ夕食できるから、すぐ来なさいね。」

「はーい」


僕は自分の部屋に戻った。

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