第4話 部活についてなど

 1階に行くと、小さい潜水艦のようなものがドームの外に停泊していた。

 刀坂さんが潜水艦に手を振ると、潜水艦はドームに沿って建物の裏手に回った。

 刀坂さんに付いて、僕も裏手に向かう。


 裏手には、潜水艦用のドックがあったが潜水艦はなく、女の人が一人立っていた。刀坂さんと僕はドックまで行く。


「君がイトヨくんかぁ。残念だけど私のタイプじゃないなぁ。」

女の人が話し始める。

「もう少しイケメンで、…そんな仏頂面じゃなくていつも爽やかな笑顔で、…もう1、20センチ背が高かったらタイプだったんだけどなぁ。」

「はあ、そうですか。」

 突然この人は一体なんの話をしているのか。それに、別に残念ではない。キャラの濃い陽キャの女性はどちらかというと僕の苦手とする部類に入るし、僕には好きな人がいるのだ。……確かにこの人は凄い美人だが。……僕の身長はもう止まったし、顔は生まれつき。そして僕のアイデンティティーである仏頂面を取ったら僕にはなにも残らない。もとから無理だったのだ。

 はっ、なぜ僕は知らない人にふられてこんなに悩んでいるのか。なんか恥ずかしい。


「冗談はやめてくれ青木。」

「タチ~、あなただって眼鏡とその仏頂面を剥がせば…」

「いとよ君、こいつの名前は青木ブダイ、特徴短所はよく喋ることだ。語尾が伸びるときは7割が冗談で3割が嘘だが、伸びないときは真面目だ。そのときはきちんと話をきいてほしい。」

「私みたいなレディにブダイって名前を付けるなんて、鈴木もあんまりよねぇ。イトヨくんは私のこと、結愛ゆなって呼んでね。」

「……」

「それで、12時ちょうどに工山高校に行けば良いのよね。」

「はい。お願いします。……青木さん。」


「二人とも、少し、後ろ向いてて。」

「分かった。」「はい。」

「何でですか?」

「聞くな。」

「はい。」


 1分弱後、もう大丈夫だと言われて後ろを見ると、先ほど見たような潜水艦がドックに浮かんでいた。青木さんはもう乗ったのか?

 刀坂さんに言われて、上にある開いたハッチから乗る。刀坂さんは乗らないらしい。


 溝水はどこまで水か。答えは、刺鯖を持っている人の体が触れている範囲だ。あと視界の中。服は含まれない。つまり、溝の中で泳ぎたいなら、本来は全裸でなければならない。最近の研究で、溝水に対応した服が出来たらしいが、服の繊維自体に触れていないと効果を発揮しないため、機械などへの実装はまだ程遠いらしい。それで僕が何を言いたいかというと……。

 潜水艦?魚の能力…自分の一部…ブダイ…後ろを向く…あっ…(察し)。ということである。詳しくは言わないが。


12時15分前

 潜水艦の中ではあまり会話をしなかった。僕は寝てしまい、着いたのはどこかしらの地下だった。ハッチを開けると井戸の中らしい。雰囲気に合わずやけに新しげなはしごを昇ると、そこは林で、さらにいうと神社の裏手だった。

 青木さんも僕のカバンを持って上ってくる。カバンを受け取りつつ聞いたところ、どうやら、松笠に会う用事があるらしい。


12時5分前、校門。

 松笠と青木さんが話をしている。松笠は良いなあ、自然と周りに女性が集まっている気がする。やはり顔の問題か。


 話が終わったらしく、松笠が学校に入る。青木さんに会釈をして、僕も校門に入る。

 そして軽く走り、校舎に入るところで追いつく。

「おはよう、松笠。」

「おう、おはよう糸魚いとい。」

 今更だが、僕のあだ名は糸魚いといだ。派生形は糸魚君、糸魚マン、糸などだ。真ん中の名前についてはあまり追求しないでほしい。

 さて、教員室に向かって廊下を歩きつつ、話をする。僕が話し始める。

「松笠にはどんな感じで話が伝わっているんだ?」

「あの女の人がお前のタトゥーに関係していることと、タトゥーに関連してお前が一瞬いなくなるから1日お前を家に泊めたことにして欲しいということ、それだけだ。」

「いや、あと、父さんが出張、母さんがママ友との旅行で家に1週間いなくて、今日ちょうど帰ってくるということ。」

「なるほどね。」鈴木さんって何者なんだろう。

 教員室に着く。


 教室に着く。昼食を持っていないことに気付いて購買に走る。そして昼食を食べて寝て、帰宅した。

 授業? 知らんがな。

※帰宅後、外泊について家族に少し怒られました。


 翌日放課後

 心地の良い朝日(夕日?)を見つつ、教室で僕は目を覚ます。部活の時間だ。気分は最高だ。

 部室に移動すると、時計は既に16時10分を指している。10分の遅刻か。


 部室の扉を開けると、部員は一人しかいなかった。1年の内の1人、副部長の稲田さんだ。フルネームは稲田愛子あいこ。その人が、1つの机の下を覗き込むような姿勢でいる。どうしたのだろうかと見に行こうかと思ったが、ストレートに行くと完全にスカートの中が見えるので、慎重に回り込んで行く。

 近づいていくにつれて、稲田さんの回りの床が赤いことに気付く。これはまさか…と思い、稲田さんに急いで近寄って肩を持つと、なんの抵抗もなく体が崩れ落ちた。顔を見ると、目を閉じて眠ったような顔だった。血まみれだが。血が出ている場所からして、撲殺、凶器はおそらく、不自然に近くに転がったマラカス。偶然血溜まりの外に落ちていたそれを拾い、立ち上がる。直後。

 部室の扉が開いて、もう1人の高1が登場する。何気なくこちらを見て、そして驚きの表情のまま動きを止める。事件の目撃者、升川ますかわ千歳ちとせ。この部で一番身長が高く、力持ちで、いつも部活に尽くしてくれる大量の本を運んでくれる運動部っぽいやつだ。

 このタイミングでの発言で、僕のロール役割が決まる。探偵か、犯人か。第一発見者という選択肢もある。しかし、升川ルートで犯人役は基本的に負け、発見者はいまいち映えない、となれば選択肢は1つ。


「よく来てくれた、升川くん。ここが事件現場だ。ほら、そんなところで立ち止まるな、君は自分から拙者の助手になりに来たのではなかったかね。」

 長文を噛まずに言い切る。よくやった僕の舌。もはや凡ミスをしなければ僕の勝ちだ。


「あ、はい。すいません。失礼します。」

 そう言って升川は部室に入る。他の部員はどこにいったのか。

 そう思ったタイミングで、松笠が部室に入ってくる。

「どうも、警察の者です。」


 松笠こいつ、やりやがった。探偵ルートにおいて五分五分になる要因は1つ。警察がいることだ。

 後ろで松笠の手を全力で引っ張っている紫さんはぎりぎり部室に入っていないのでセーフだ。おそらく、警察役花形をどっちがやるかで揉めたのだろう。体の一部が部室にはいれば、ロールスタート。文芸部の鉄則だ。

 状況が状況だから仕方がないが、松笠こいつ、紫さんと手を繋いでやがる。赦すまじ。あと、強引な男は嫌われるぞ、松笠。


 一応ゲームのルールを説明すると、このゲームは完全にプレイヤースキルに依存する、ロールプレイングゲームだ。制限時間は約30分

 ストーリーに合わせなければ1週間入室禁止。犯人役は捕まったら負け、警察役もしくは探偵役は罪を暴いたら勝ち。勝敗は黒板の端に貼られた紙に記録され、負けた方はその回と次の回の部活のときに全力で煽られる。もちろん勝った方は全力で煽る権利が与えられる。残りの人はカウントなしではあるが、ゲーム中は流れ弾罪の押し付けに当たる可能性があるので、気は抜けない。

 年全体で負けた回数がトップだった人は部活最終日のパーティーに全員分のお菓子を買ってくること。買ったお金は経費で落ちるという良心的なシステム。

 例外ルール。第一発見者役が面白くない言動をしたら、部活1回休みだ。

 

 




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