第2話 組織についてなど
亀井さんが話し始める。
「改めて自己紹介すると、俺の名前は亀井すっぽん。年は33才、君のちょうど二倍くらいだね。生まれも育ちもこの辺じゃない場所だ。まあ俺の情報は君にとってそんなに重要じゃないね。」
これはさっき聞いた。それよりも、
「あの、」
「申し訳ないけど質問は、俺が話し終わってからで。では本題に入ろう。」
「まず、君が見ただろう金属の塊についてだけど、俺達はそのまま金属塊と呼んでいる。これについてはまだ俺らの方でも詳しくは分かっていないんだけど、地底から伸びる棒状のものであることは確認されているんだ。
その金属塊が人の体に触れると、おそらくその人の体に吸収されるのだろうと俺達は考えていてね。そして吸収してしまった人の体のどこかに、1日以内にタトゥーが浮かび上がる。君の腕についているそのタトゥーのことだね。」
「でもって、俺はタトゥーのある人を集める組織に所属している。組織の名前は、『アンカー』というんだけど、まあこれもどうでもいいか。」
「分かったかな。」
「なんとなく、分かったかもしれないって感じです。」
「よかった。それと、これから俺は君の事をイトヨくんと呼ばせてもらうことになる。」
「なんでイトヨなんですか?」
「君の腕についている、そのタトゥーの意匠はイトヨっていう魚なんだ。」
「へえ、初めて知りました。川魚ですか?」
「俺は分からないな。魚についてはあまり詳しくないんだ。ただ聞いてるのは
「そうですね。」
「他に何か聞きたいことは?」
「特には無いですが…」
「よし、じゃあアンカーに行こう。」
突然亀井さんに後ろから押さえつけられ、口に布を当てられる。合意のもとに付いていく感じかと思ったら誘拐か。少し信用してしまったことは間違いだったか。
亀井さん的には顎を押さえているつもりだろうが、喉が押されて結構苦しい。甘い感じの変な匂いがするので、これがクロロホルムというやつかと呑気に思っていると、意識を失った。
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気がつくと、全体的にベージュっぽい雰囲気の部屋にいた。首が痛い。取り敢えず立ち上がって周囲の状況を見る。
部屋の大きさは目算で約4畳くらい、机と箪笥が置いてあり、ちゃんとドアもある。開くかはわからないが。
天井には小さめのLED電球が嵌め込まれていて、そのスイッチはドアの隣にある。窓はない。
これで窓があれば完璧に快適な部屋だったのにと思うが、贅沢は言えない。起きたら手術室でベッドに縛り付けられていた可能性だってあったのだ。
10分後、することもないので部屋を詳しく調べる。とりあえずドアの横にあるスイッチをオンオフすると、部屋の電気がついたり消えたりした。次に箪笥の中身を確認したが、何も入っていなかった。そして机の上にはスタンドライトが乗っていて、机の下にはゴミ箱が置いてある。ゴミ箱にも何も入っていない。ドアは……後回しにしよう。自分の服装についても確認したかったのだ。
服装は帰宅時と同じで制服姿、工山高校が最近導入したブレザースタイルだ。ネクタイとセーター、ブレザーも身に付けているし、ブレザーのポケットには財布も入っている。腕には時計がついていて、朝の7時半を指している。まさにそのままつれてこられた感じだ。
服装の確認は終わった。……さて、もうすることもないし寝るか。朝だけど。ドアは……どうしようかな。
まあ開かなかったとしてもその時はその時だ。開かなくても気を落とすことはない。ドアが開かないからと言ってすぐに死ぬわけではないんだ。
ドアノブを回して思いきり引いた。するとドアは拍子抜けするほど簡単に開き、僕はドアに引っ張られて転んでしまう。そして少し視線を上げると、目の前には大きな靴があった。
僕は急いで立ち上がり、目の前の人を見る。
知らない人だ。眼鏡を掛けた細長い男で、スーツを着ている。
「おはようございます。いとよ君。」
「お、おはようございます。」
「初めまして。」
「はあ、初めまして。」
「私は
「そうですか。」
「どうぞお見知りおきを。」
「気軽に刀坂さんと呼んでください。」
「はあ。」
「ところで、ここがどこか分かりますか?」
「…アンカー、ですか?」
「そうです。よく分かりましたね。」
「まあ、流れ的にそうかなあ、って。」
「なるほど。」
「……」
「……」
「いとよ君はあまりおしゃべりとかは好きじゃないんですか?」
「まあ、そうですかね。」
「では、私もあまりしゃべりません。」
「はあ。どうも。」
「何も用事がなければ鈴木のところに行きますが、どうしましょうか。」
「はい。別に特には。」
「では早速向かいましょうか。あ、鈴木はこの組織のリーダーですので、くれぐれも失礼のないようにお願いしますね。」
「はい。」
刀坂さんの後ろに付いて、廊下を歩く。廊下はかなり長く、円形になっていた。
しばらく歩き、エレベーターに乗って下の階に降りる。エレベーターのドアには大きく4の文字が書かれているから、ここは4階なのだろう。エレベーターの中ははかなり広かった。例えるなら、某北欧発の家具店のような感じ。ここに住んでいる人は結構たくさんいるのか。エレベーターのボタンは10個くらいだから、約10階建ての建物か。なかなか大きい組織みたいだ。
エレベーターを降りると、四階とは違って殺風景な景色。金属の壁に沿ってパイプが走っている感じだ。その潜水艦のような道を歩いていくと、行き止まりにエアロックっぽい扉があった。刀坂さんが開けて先に入るよう促す。
「ここから先が鈴木の部屋です。私は行けません。お一人でどうぞ。」
一人でここに入るのか。廊下とは全く異なりスイートルームのような部屋が、扉の奥に広がっている。緊張する。
多分
「えっと…、失礼します…。」
「ああ、来たまえ。」
「はい。」
僕は部屋の奥に行く。後ろで、エアロックが閉まる音がする。鈴木という人は60才くらいのダンディーな人だった。椅子に座って何かの資料を手に持ちつつ、こちらをじっと見ている。
「はじめまして、糸魚川といいます。」
「ああ、名前は聞いているよ。こちらこそよろしく。私は鈴木
「はい。」
とはいっても、座っている人に手首を見せるにはどうしたらいいのか。まさか跪くのか?…あまり気が進まないが。そこの椅子に勝手に座るというのもあまり良くないだろうし。
僕が躊躇していると、鈴木さんが言う。
「おっと申し訳ない。向かいの椅子に座りたまえ。」
「はい。じゃあお言葉に甘えて。失礼します。」
僕は座って袖をめくり、左手首を見せる。鈴木さんは満足そうに頷いた。そして言う。
「君はすでにアンカーに所属しているのだが、おそらくここのことについて説明はされていないだろう。ここについて簡単に説明しようか。」
「はい。」
「アンカーという組織は、
入れ鯖?
「ああ、刺鯖が分からないか。刺鯖というのは君の左手首にあるそれだ。亀井はなんて呼んでいたんだ。」
「タトゥー、って言っていました」
「ああ、まあ、タトゥーと言ってもいいのだ。
刺鯖という名前は、刺青の間に魚を挟むイメージで儂が考案したのだが。刺魚青的な感じでな。もう分かっているようにあまり使われていない。
だから、皆が使ってくれるようになるように私は頑張っているのだ。これのことをいつまでもタトゥーと呼んでいると、いずれ混乱するだろうと思わないか。」
なるほど。
「それと、組織員は300人程度で、そのうち刺鯖を持っているのが31人だ。君を含めてな。」
「刺鯖を持っている人は案外たくさんいるんですね。」
「」
「この組織はメンバーの活動を要求するものではない。だから、基本的にはそのまま生活を続けられる。のだが。」
ん?不安になるような言い回し。
「飽くまで任意なのだが、活動を要求する場合もある。」
「それは、どんな場合でしょうか。」
「まあ、研究に使う試料を少し採取させてもらったり、あとは、外の調査に行ってもらう場合もある。」
僕のところに来た亀井さんのような感じか。
「それで僕に、利益などはあったりするんですか?」
「利益か。金のことか?」
「あ、いえ、別に、なんかあるのかな、って思っただけなので。」
「そうだな。金も多少なら出すことはできるが、君がより好きそうな利益があるよ。実は刺鯖によってその生物の能力の一部が使えるようになる。例えば、その能力の発現方法を少しずつだが君に教えてあげようと思うのだが、どうかな。」
おお、ロマンのある展開。
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