第14話幸福の散財

 ついに前の会社の退職金が底をついた、岩岡は本当にどうするか考えなければならなくなった。

「もう一つバイトを掛け持ちしてここに住み続けるか・・・、いやこれ以上は体がついていけれない。いっそのこと三重に戻ってホームレス・・・・、いやダメだ。俺はあんな生活は二度と御免だ。」

 岩岡は考える人のように考えたが、いいアイデアは浮かばない。しばらくすると考え込みによる疲れで、岩岡はそのまま居眠りをしていた。

「岩岡よ。」

「ん・・・・?この声は・・・・?」

「わしじゃ、大黒天じゃ。」

 岩岡は大黒天に気づくと、あわてて武士のように跪いた。

「大黒天様、今回はどうしたのですか?」

「ふむ、お主の借金もようやく一億円をきったから様子を見に来たが、また困っているようだな。」

「はい、正社員として働いていた会社が火災で急に倒産してしまいました。もう生活費もないので、ここを出てまたホームレスになろうかと考えていました。」

「それはいかん!!お主にはまだ、幸せを掴む機会がまだある。」

「ありがとうございます、その言葉を胸に刻みます。」

「そうじゃ、お主にいい機会を与えよう。」

「何ですか?」

「私の力でお主を故郷に戻す、そしてまたあの公園に行くのだ。」

「そうすれば、また幸せをつかめるのですね。」

「ああ、仏像の力を使うのを忘れるなよ。明日また来るから、身の回りの整理もわすれるな。」

 その後岩岡は眠りから覚めた、そして大黒天に言われた通り身の回りの整理を始めた。


 身の回りの整理を終え、就寝してから五時間後に岩岡は目覚めた。彼は顔を洗って着替えると、今までお世話になった七海夫妻に別れのあいさつにいった。インターホンを押すと、七海が眠そうな顔で出た。

「岩岡さん、こんな朝早くどうしましたか?」

「七海さん、実は訳あって急ではありますが三重に戻ることになりました。」

「そうか、それは寂しくなるな・・・。」

「今までありがとうございました、お礼もできずに申し訳ありません。」

「いいえ、気にしないでください。こちらも楽しかったです。」

 岩岡は七海と握手をすると、自分の荷物を持ちだしに戻った。そして管理人にも挨拶を済ませると、丁度良く大黒天が現れた。

「それでは岩岡よ、準備はいいな。」

「はい、お願いします。」

 大黒天が打ち出の小槌を振ると、岩岡の姿は消えていた。


 岩岡の視界に広がるのは遊具と砂場、かつてホームレスだった岩岡が寝泊まりに来ていた場所だ。

「ああ、懐かしいなあ。まさか俺が公園で暮らす事なんて、子供の頃には夢にも思わなかったなあ・・・。」

 岩岡はかつての思い出をしみじみ感じながら、ただ歩いていった。歩いていくと見えるのは見慣れた建物ばかり、もちろんかつての家もあった。だが何故か窓が全て閉まっていて、玄関前に立入禁止の黄色いテープが貼られていて、中に入れない。


「あれっ?ここには恵と文香と、姑と舅がいたはず・・・。」

 一体東京にいる間に、何があったというのか・・・?

「おや、武さんかい?」

「ああ、お久しぶりです。」

 声をかけてきたのは、かつて回覧板を家に回してくれたご婦人だ。

「あのすいません、この家に何かあったのですか?」

「ああ、二か月前にあんたの元妻と娘が引っ越していったよ。それ以来ここは、空き家のままさ。」

「えっ、どうして・・・?」

「ほら、あんたを家から追い出した爺さんと婆さん、交通事故で亡くなったのよ。帰宅時タクシーに乗っていたら、暴走車に後ろから追突されその勢いで、電柱に思いっきりぶつかったって。それで恵さんと文香ちゃんはやっと毒親から解放されて、葬式を終えるとすぐに引っ越しの準備にとりかかったのよ。あっそうだ、ちょっとそこで待ってて。」

 ご婦人はすぐ近くの自宅に入ると、少し経ってから封筒を持って岩岡の所に戻ってきた。

「もし、あなたに会ったら渡してほしいって頼まれたの。」

「わざわざ、ありがとうございます。」

 岩岡はご婦人と別れると、封筒を開けた。そこには葉書きが一枚と引っ越し先までの運賃千円が入っていた。葉書には「武さん、会いに来てね。」という短いメッセージの文と、引っ越し先の住所が書かれていた。

「えっと、鈴鹿か・・。」

 岩岡は駅へ向かった。


 岩岡は電車を二回乗り換え鈴鹿駅に到着した、そして道行く人に場所を聞き、目的地に到着した。インターホンを押すと、長い茶髪が綺麗な文香が出た。

「あ・・・パパ・・・!」

「引っ越ししたんだって、もうビックリしたよ。」

「さあ上がって。母さん、パパが来たよーーーーっ!」

 文香の叫び声に反応した恵が玄関に出た、そして岩岡に抱き着いた。

「会いたかったわ・・・。」

「ああ、こちらもだ。」

 その後、岩岡は二人からおもてなしを受けた。

「そういえば文香、夢はかなったのか?」

「うん、まだまだレギュラーではないけどニュース番組に出るようになった。」

「そうか、頑張ったな。最近、お金に困ったことは無いか?」

「そんなことないわよ、ていうかいつからケチになったの?」

「そ・・そんなことないぞ!」

 親子から変わらない、文香と岩岡のやり取りである。

「でも一つ、お金に困っていることがあるの。」

「なんだ、それは?」

「この近くに住民の憩いの場となっている、大きな楠の丘があるの。でもそこが来週から始まる開発で、スーパーマーケットになってしまうらしいの。私や一部の住人は反対しているんだけど、「反対するのだったら買い取ってくれ。」って市に言われて・・・、もう諦めているわ。」

「そうか・・・、よし!ここは私に任せろ。」

 岩岡は胸を叩いた、文香はまた笑い出した。

「あの丘を買い取るの?無理無理、そんな金がどこにあるの?」

「フフフ、ついに晒す時が来たか…。」

 岩岡は懐から仏像を取り出すと、全部の金を出すように祈った。すると百万円の束が雨のように降ってきた。

「えっ!えっ、えっ、えーーーーーーーーーーーー!?」

「噓でしょ、あなた・・・・、どうなっているの?」

 その光景に文香も恵も、この世の物ではないものを見たという顔をした。

「どうだ、七福神からの恵みだぞ。」

「七福神から・・・、信じられない。」

 岩岡は恵と文香に、七福神と出会いこの仏像を授かったことを話した。

「実は文香の大学の学費もこの仏像から出してもらったんだ、隠していて申し訳ない。」

「パパ・・・、ありがとう。パパは凄いよ。」

「そ、そうか?」

「だってもし私が七福神から七億借金したら、約束なんか破って豪遊しちゃうもん。それだけパパが誠実だってことだよ。」

「そうね、あなたは人情に厚い人だったからね・・。」

 恵と文香は岩岡の、堅実で義理堅い所に感動した。

「恵・文香、こんな私をここまで好きになってくれてありがとう!」

 岩岡は泣きながら恵と文香を抱いた、二人も泣きながら岩岡を抱いた。

「よかったのお、再び縁を繋ぐことが出来て。」

 岩岡はふと大黒天の声を聞いた、岩岡はその声に「ええ。」と心の声で答えた。

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