第13話救済が実る時

 三重から東京に引っ越してから数か月で、無職に戻った岩岡。今まで働いていた会社が、火災により倒産したのだ。

「今、コンビニバイトしていてギリギリこのマンションに住んでいる・・。でも退職金も残り少ないし、会社に紹介された再就職先もすでに全て落選、まあこの年じゃあ無理ないか・・・。」

 ホームレス生活を経験しているので岩岡の心は折れていないが、ここからまたどお這い上がるのか、希望に通じる一つのロープをまだ見つけられずにいた。

「考えていても仕方ない、バイトに行こう。」

 岩岡は着替えだけ済ませると、荷物を持ってコンビニに向かった。コンビニの場所は駅から目と鼻の先の場所なので、客は大抵サラリーマンか学生である。岩岡がレジで店番をしていると、さわやかな顔立ちの若い先男性が声をかけてきた。

「岩岡さん、お久しぶりです。」

「ん、君はだれだ?」

「忘れたんですか!ほら、お金をもらったおかげで大学を退学せずにすんだ!」

「えっ、宮森君?」

「そうです!覚えていてありがとうございます。」

「立派になったね、あの後上京したのか?」

「はい、今は食品加工の会社で営業しています。」

「そうか、少し前まで私もそうだったんだけどな・・・・。」

「岩岡さんはどうして上京したんですか?」

「実はハンバーガーショップでバイトをしていて、そこで評価されて本社で働かないかと言われて上京したんだ。けどね・・・。」

「あっ!もしかして例の火事で潰れたハンバーガーチェーン店でしたか。嫌な事を思い出させて、ごめんなさい。」

「いやいいんだよ、私はいつも通りだから。」

「そういえばあの時、一緒にいたあの子はどうなったんですか?」

「ああ、卓也君か。あの後少しの間一緒だったけど、親戚に引き取られて横浜で暮らしているそうだよ。」

「そうか、よかった。」

 宮森は岩岡と話し終えると、スパゲティとサラダと缶コーヒーを購入し、急ぎ足でコンビニを後にした。


 二日後、岩岡は自宅で買った雑誌を見ていた。最近の岩岡の趣味は、もっぱらこれである。丁度読み終えた時、インターホンが鳴ったので玄関に出るとお隣の七海がいた。

「七海さん、どうしたんですか?」

「これから妻と食事に行くけど、岩岡さんもどうですか?」

「いいんですか?」

「ええ、もちろん。」

 岩岡は七海夫妻と一緒に外食に出かけた、場所はうな重の専門店。

「こんな高いとこいって、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ、なんだか再就職したところが前よりも給料がいいところで。」

「ああ、もう最初からそこで働きたかったくらいだ。」

 七海は前の会社では上司だったが、年の差では七海が二十数歳も若い。岩岡は人生で初めて、若さが羨ましくなった。それぞれ注文を終えると、七海が岩岡に話しかけた。

「岩岡さん、あれからまた仕事をしていますか?」

「いいや、前の会社から紹介されたところも全て断られた。」

「こういうのは失礼ですけど、もし岩岡さんが二十数年若かったら、私が働いているとこを紹介できました。」

「そうだな・・・、今はバイトでなんとか食っていけているが、近いうちに引っ越しを考えないとな。」

「そういえば最近、岩岡さんに会ったことがあるという人と知り合いました。」

「ん?誰だ?」

「確か宮森といったなあ・・・。」

「ああ、最近バイト先で会ったよ。」

「そうでしたか、宮森さんは流通系の企業を立ち上げ社長になっているそうです。」

「すごいなあ・・・。」

「それで宮森さんが言うには、「大学生時代に六十万をあなたからもらったおかげで、大学を中退せずに済んだ」と聞きました。岩岡さん、本当ですか?」

「ああ、あの時はまだ銀行の支店長だったから、まだお金持ちだったんだ。」

 少し嘘をついた、あの時岩岡はすでにホームレスだった。

「そうなんですか、それで今宮森さんの会社がピンチ何ですよ。」

 岩岡は七海が余計な詮索をしなくてよかったと感じた。

「何があったんだい?」

「流通の本数が増やせないんだ、このままだと従業員を減らさなくてはならず、会社の信用に関わる。」

「流通の本数を増やせないというのは、どういうことだ?」

「何でも輸送車、大型トラックの数が足りないんだ。運転手は余るほどいるというのにな。」

「なるほど、だから流通の本数が増やせず収益が上がらないと・・・。」

 岩岡はコンビニで会った宮森の笑顔の裏では、大変なことになっているとは思ってもみなかった。

「そうか、じゃあ宮森さんの会社の住所ってわかりますか?」

「うちの会社と取引しているから、会社に名刺はある。でもそんなことしてどうするの?」

「ちょっと宮森さんと話がしたくて・・・。」

「そうか、それならコピーになるけど宮森の会社の名刺を持ってきてあげるよ。」

「ありがとう、よろしくお願いします。」

「岩岡さんって、ほんとお人好しですね。」

「由香さん、ありがとうございます。」

「褒めてないわ、ただ心配なだけ。」

 その後岩岡と七海夫妻は、注文したうな重を食べ終え、マンションに戻っていった。


 そして二日後、岩岡は七海から宮森の会社の名刺のコピーを受け取った。そこには電話番号が記されたので、早速電話を入れた。すると電話に出た宮森から、明日来てほしいと言われたので待つことにした。そして翌日、岩岡は昨日宮森に言われた五反田駅で、タクシーを待っていた。そしてやってきたタクシーに乗って、会社へと向かった。タクシーから降りるとき乗車賃を払おうとしたが、すでに受け取り済みだった。岩岡が会社に入ると、宮森が出迎えてくれた。

「岩岡さん、よく来てくれてありがとうございます。」

「こちらこそ、それにしても立派な会社ですね。」

「いえいえ、会社というよりシェアハウスですよ。」

 確かに宮森の会社は戸建てで小さく、社長室も前の会社より狭い。岩岡と宮森は小さなテーブルを挟んで、二つの一人専用のソファーに腰掛けた。

「七海さんから話は聞いた、会社が大変なことになっているそうだね。」

「えっ、七海さんと知り合いなんですか?」

「ああ、前の会社の付き合いで今はお隣さんだ。」

「そうだったんですか、岩岡さんの言う通り我が社には輸送車が足りないんです。そのせいで大手の案件もとれていません。」

「なるほど、このままだとまずいですね・・・。資金のあてはあるのですか?」

「無い、銀行の融資も断られた。実績が足りないとね・・・。」

 岩岡は考え込むと、懐から仏像を取り出して一千万を願いながら振った。すると狭い社長室に、札束の雨が降った。

「こ・・これは・・・幻か!?」

「いいえ、七福神からのお慈悲です。これで会社を持ち直してくださいと。」

 岩岡が驚いている宮森に言うと、宮森は泣きながら七福神を拝んだ。


 その後岩岡が七海から聞いた話では、宮森は一千万円を設備充実のためにつぎ込み、会社は規模と能力の増強に成功し、順風満帆な売り上げの右肩上がりを成し遂げた。

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