第6話募金ノルマ

 その後岩岡は例のハンバーガーショップの面接を受けた、銀行で働いていたことが良い意味で言われ即採用、明日からでも来てくれと広田益夫に言われた。岩岡が帰り道を歩いていると、コンビニ前で赤い羽根共同募金の箱を持った四人の小学生が、募金を呼び掛けていた。

「このご時世に、なんと感心的な事だ。私も寄付しておこう。」

 そうすると岩岡は仏像に「五百円ください」と念じ五百円硬貨を手に入れると、一番左側の男子の持つ募金箱に五百円硬貨を入れた。

「おじさん、五百円も入れていいの?」

「ああ、私は人を幸せにするのが好きなんだ。」

 そういうと男子は「ありがとうございます。」と頭を下げた。

「じゃあね、健気に頑張れよ!」

 岩岡は四人の小学生と別れた後、少し照れくさい気持ちになった。家に着くと卓也が、岩岡を出迎えた。

「岩岡さん、面接どうだった?」

「ああ、即採用。明日から来てくれだって。」

「凄い!七福神のご加護があったからかな?」

「ははは、そうかもな。」

 そして岩岡はいつもの事をして、眠りに着いた。


 翌日の午前六時に岩岡は起床、一時間後にはバイトへ。岩岡は実の所初めてのアルバイト、元々裕福な家庭だったので高校時代の岩岡はバイトへの関心は皆無だった。

「それじゃあ、岩岡君はレジをやってもらおう。」

「はい、お願いします。」

 広田の指導の元、岩岡はレジの基本を学んだ。岩岡は基本を覚えるのは早いが、応用への転換が苦手だ。でもレジは基本がわかれば、トラブルが無い限りどうという事は無い。岩岡はお昼の時間、列をなす客を確実に丁寧に素早く捌いていった。そして午後五時、岩岡が上がる時間だ。

「お疲れ様、さすがは元銀行員だね。明日の夜も頼むぞ。」

「ありがとうございます。」

 岩岡はハンバーガーショップを出た後、夕食の買い出しに出かけた。食費は全て董さんから出してもらっている。スーパーマーケットに向かうと、また四人の小学生が募金活動をしていた。

「最近みかけるんだよな・・・、本当に感心する。」

 岩岡はそんなことを考えつつ、夕食の肉じゃがの材料を買って店を出ると一人の小学生に声をかけられた。

「おじさん、一つ質問してもいい?」

「いいよ、何だい?」

「僕はお母さんと買い物に来たけど、はぐれてしまったんだ。それでお母さんが肉売り場にいるからって言ったから、肉売り場がどこにあるのか・・。」

「よし、肉売り場なら・・。」

 とその時、「何しているんだ!」という男の大声がした。

「やべぇ、逃げろ!」

「えっ!なんですか!?」

 岩岡が後ろを振り返ると、一人の男子が岩岡がズボンの後ろポケットに入れていた財布を、右手に持って逃走していた。

「ほらっ!観念しろ!」

 叫んだ男が男子を捕まえた。

「まだ小学生なのに、どうして泥棒をするんだ!親はどんな教育しているんだ!」

「あの・・、私の財布・・。」

「ああ、すいません。どうぞ。」

 その時、岩岡と話をしていた男子も逃げようとしたが、岩岡は「待って!」と叫んで呼び止めた。男子はもう一人みたいに激怒されると想定し、恐怖で体を震わせていた。

「どうして君はあの子と一緒に私の財布を取ろうとしたんだ?訳を話してくれ。」

「・・・怒らないの?」

「ああ、怒らないと約束する。ただ訳が知りたいんだ。」

 そういうと男子は、泣きながら正直に言った。

「僕のクラスでは一月の募金金額が十万円という目標があるんだ、それも毎月。しかも三か月も達成してないから先生が、「もし月末までに十万円集められなければ、一人二千円用意してもらう。」って言ったんだ・・・。」

 岩岡は呆れた、学校がブラック企業の真似ごとかと。

「それは信じられない話だね・・・。」

「でも本当なんだ、先月の時はクラス全員宿題を増やされたあげく五百円用意させられた。」

 男子は、涙を流しながら情に訴えた。

「そうか・・・、大変だったんだな。」

 すると先程の男が岩岡と男子に言った。

「警察を呼んだから、君は警察にさっきの事を話すんだ。岩岡さんは私と一緒に証言してくれ。」

「はい、もちろん。君もそれでいいんだね?」

 男子は涙を腕で拭って、うんと頷いた。その後警察が来て岩岡と男が事情を聴かれた、一方男子二人は警察に話した後、連絡を受けて駆け付けたそれぞれの母親に連れて行かれた。岩岡はすっかり帰るのが遅くなってしまい、風呂に入った後すぐに眠りに着いた。

「それにしてもM小学校は、子供になにをやらせているんだ・・・。」

 岩岡は眠りながら、募金に対するノルマについて怒っていた。

 そして翌朝、岩岡は卓也に何故昨日の帰りが遅かったのかを話していた。

「M小学校って、俺が通っている学校じゃないか!」

「えっ!!」

「いや、俺はあまり学校に行っていなかったからしらなかったけど・・・。」

「じゃあ、君はどうして学校に行かなかったの?」

「親からも見捨てられて、友達もいない自分に自信がなかった。親に学校に行きたくない!と言ったら、親はああそうか・・・とあまり気に留めない態度だったから・・、それでずっと家の中にいた。」

「そうか・・・、大変だったんだな。」

 やがて食事を終えると董の所に行って、M小学校について調べるためにパソコンを借りた。そして電話番号と住所をメモに書き込むと、自分の部屋に戻って電話を掛けた。

「はい、M小学校です。」

「岩岡武です。今日の午前十一時にそちらにうかがってもいいですか?」

「かしこまりました。ご用件は、何でしょうか?」

「この学校の醜態についてです。」

 そう言って岩岡は電話を切った。そして午前十一時、岩岡はM小学校の校門をくぐり、近くにいた先生に話しかけた。

「先程電話した、岩岡武です。校長先生か教頭先生をお願いします。」

 仏頂面が静かに言うとまさに威圧を感じ、先生オロオロした態度で言われたとおりに校長先生を連れてきた。

「君が、岩岡か?」

 校長は不機嫌そうに尋ねた。

「はい、お話があって来ました。」

「では校長室へ。」

 岩岡と校長先生が校長室に入り、岩岡は昨日のことを校長先生に話した。

「募金活動は素晴らしい事ですが、それにノルマをつけるのは間違っています!」

「私としては子供たちに、目標を達成することの大切さを教えているつもりです。」

「確かにそれはそうですが、何が何でもというのはおかしいです!」

「顔に似あわず甘いことを・・、社会では何が何でもは当然のことだ。聞いた話、君はホームレス生活をしているそうじゃないか。」

「・・・!どうしてそれを?」

「本校の生徒から本校の不登校児と接触しているという話を聞いた、人生において大きな間違いをした者に言われる筋は無い!この下郎めが!」

 校長先生は岩岡を非難した、すると岩岡は懐から仏像をだして二百万円を願いながら振り、二百万円を出した。

「君!?この金は・・・?」

 驚きのあまり椅子から転げ落ちた校長が言うと岩岡は言った。

「この金はあなたにあげます、そして赤い羽根共同募金に寄付して二度と子供たちに、あんな真似させないでください。」

 啞然とする校長先生をよそに、岩岡は学校から出て行った。


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