第4話薄汚れた恵の神

 岩岡と卓也と大木は、いつもの公園にいた。卓也は大木に岩岡の事について話した。

「神様から借金をするなんて・・・、今一つ信じられない。」

「ホントだよ、岩岡さんあれ見せてよ!」

「あれか、見るだけならいいぞ。」

 岩岡は懐から仏像を出した。

「何だか小さいな・・・、でも金色で綺麗。」

「そうだね。確かに持ち歩くよりも、仏壇か床の間に置いといたほおがいいと思う。」

「所で大木君、君の周りにお金で困っている人っている?」

「お金か・・・、あっそうだ!」

 大木は卓也に小声で何かを伝えた、すると卓也は顔の色を変えて岩岡に言った。

「お願い!ススキ堂を助けて!」

「ススキ堂?何だそれは?」

「よし、俺が案内してあげる。」

 大木と卓也は、岩岡をススキ堂へと案内した。公園から歩いて十分程で、到着した。

「ここが、ススキ堂・・・。」

 そこは昔ながらの家のような学習所、でも来ている子供の姿が無い。

「いらっしゃい。」

 ススキ堂の店番をしていたのは、穏やかな若い女性。

「董さん、こんにちは。」

「卓也くんじゃない、久しぶりね。」

「それでこちらが、岩岡さん。」

「初めまして、岩岡武です。」

「初めまして、董です。どうぞお上がりください。」

 三人は和室に入り、董がお茶と煎餅を用意した。

「董さん、あの事話してよ。」

「えっ、ここがあと二週間で無くなること?」

「うん、僕も初めて知って驚いたよ。どういうことか、教えて!」

 董は話すかどうか、考え込んだ。それを見た岩岡が言った。

「もし私の力で解決できるなら、解決いたしますよ。」

「ホントですか!」

「ええ、もちろん。」

 董は事情を話し出した。

「このススキ堂は、学習棟として町内会のお金で運営していました。でも少子化とか塾が増えてきたことがきっかけで、このススキ堂には子供たちが来なくなってしまいました。それで町内会とPTAが話し合って、このススキ堂を無くすことにしたんです。」

「そんなことになっていたとは・・・・・・、それでどうしてお金が必要なのですか?」

「私は町内会やPTAと話し合って、ススキ堂を私個人で営業し子供たちのための養護施設にしようと思っていたのですが・・・・・、一か月前に働いていた会社を辞めてきたばかりでお金がないんです・・・。」

「なるほど・・・。」

「私、よくこのススキ堂に来ていたんです。小学六年から高校生まで、落ち着いて勉強できる場所として。だからこういう環境を残したいと思うんです、家で勉強できない子供達のために。」

 岩岡は懐から仏像を取り出すと、こう言った。

「ススキ堂を運営するために、おいくら必要ですか?」

「えっ・・・、支援してくれるんですか?」

「はい、投資という訳ではなくお金が必要な人にお金をあげているんです。」

 董は支援を受けるかどうか悩んでいた、岩岡の服装から見ても岩岡がお金持ちとは思えないし、後からとやかく言ってくるかもしれない。

「董さん、僕らのためにもお願い!」

「僕たちはこのススキ堂が、大好きなんだ。」

 卓也と大木の懇願に、董は気持ちを動かされた。

「・・・わかりました、では百万円をお願いします。分割でも構いません。」

「百万だね、わかった。」

 岩岡は念じながら仏像を振った、すると百万円分の札束が現れた。

「うわあっ!・・・・・えっ、どうなっているの?」

「すごいだろ!岩岡さんは七福神から金を借りたんだ。」

 董は卓也の言っていることが理解できなかったが、岩岡の説明でようやく理解すると、岩岡に言った。

「あの、百万円のお礼をさせて頂いてもいいですか?」

「えっ、ホントですか!!」

 今度は岩岡が驚いた。

「私の弟が、この近くでアパートを運営しているんです。私の口入れで入居させてあげます。」

「よかったね、岩岡さん!」

「・・・ああ、本当にありがとうございます。この事は、生涯忘れません。」

 岩岡は泣きたくなるほど嬉しかった、腰を落とせる居場所を手に入れたからだ。


 董の弟・伸弥が運営しているマンションは、ススキ堂から車で四十分かかる所にあった。岩岡と卓也は205号室で暮らすことになった、ちなみに104号室には董が一人で住んでいる。

「岩岡さん、何を読んでいるの?」

 岩岡は夕食を買うために董と立ち寄ったコンビニで手に入れた、求人広告の雑誌をまじまじと読んでいた。

「これから新しく働くところを探すんだ、いつまでも董さんには甘えてられないからな。」

 一応、三か月分の家賃は董が肩代わりすることになった。岩岡はそれまでの間に貯金をしなければならない。

「ところで、君は学校はいつから行くんだ?」

「・・・行かない。」

「えっ!?どうして?」

「出ていく時に置き忘れた、それに今は行く気にはなれない・・。」

 卓也はまだ大輔に捨てられたショックを抱えているようだ。

「そうか・・、それじゃあ今日はもう寝よう。」

「うん。」

 岩岡は卓也と共に、久しぶりの温かい布団の中でぐっすりと眠った。


 翌朝、岩岡は求人広告で見たハンバーガーショップのバイトの面接を受けることにした。今日は昼食も兼ねて下見に出かけるところだ、岩岡が着替えを終えてふと棚を見ると、置いてあった仏像が無くなっていた。

「あれ?確かここに置いたはず・・・。」

 岩岡はテレビを見ている卓也に声をかけた。

「卓也、ここに置いた仏像を動かしたか?」

「ううん、動かしていないよ。」

 じゃあどうして・・・、岩岡は頭を抱えた。このままでは自分が地獄に落ちてしまう、しかし捜しようにもこの棚に置いた時点までしか記憶がない。

「もしかして、盗まれた!」

 岩岡はそう思ったが、だとしたらそれは誰なのか・・・?

「岩岡さん、どうしたの?」 

「仏像が・・・消えてしまった。」

「えっ!!あの大切な仏像を!?」

「ああ、一体どうして・・・?」

 岩岡が途方に暮れていると、大黒天が神々しい後光を放ちながら現れた。

「うわあっ!」

「だ・大黒様!!」

 まずい、仏像を無くしたことを知って地獄へ落とすつもりだ・・・と岩岡は感じた。しかし大黒天は柔和な笑みを浮かべると、岩岡にあの仏像を渡した。

「あっ!これは・・・。」

「お主が困っておろうと渡しに来た。」

「ありがとうございます!」

 岩岡は大黒天に五体投地をした、そして大黒天は岩岡に言った。

「岩岡よ、金は人の精神をも狂わせる力がある、これを忘れるな。」 

 そう言い残して、大黒天は消えた。

「よかったね、岩岡さん。」

「ああ、でもなんで仏像が無くなったのか・・?」

 岩岡が腑に落ちない表情をしていると、インターホンが鳴った。

「はい、あっ!董さん。」

「岩岡さん・・・、伸弥が、弟が大変申し訳ございませんでした!」

 董はいきなり土下座した。

「ん!?どういうことですか?」

 岩岡が董を部屋に入れて話を聞くと、仏像を盗んだ犯人は伸弥だという。伸弥は董から岩岡の「魔法の仏像」の話を聞き、金欲しさに盗むことにしたという。昨夜管理人だけが使えるマスターキーで岩岡の部屋に侵入、まんまと持ち出した。ところが振っても金が出ないので、ハンマーで破壊しようとしたところ何故か誤って股間にぶつけてしまったという・・・。 

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