第3話家無き者の青い鳥探し
午後九時、岩岡と卓也はあの公園に戻ってきた。
「卓也君だっけ?君の名前。」
卓也は何も言わない。
「これから新しく君が住める家を探していこう、だからこれからよろしく。」
「何で・・・、何で僕を助けたりなんかしたの?」
「それは君の事が、ほっとけなかったからさ。」
「ほっといてよ、そうすればよかったんだ!」
卓也は叫んだ。
「それなのに、魔法みたいにお金だして・・・、あんたは人さらいだ!」
卓也は家に戻ろうと後ろを向いて走ろうとしたが、岩岡は卓也の腕を咄嗟に掴んだ。
「離せよ!」
「君が戻っても、お父さんは家に入れてくれない。というより君は今まで家の中で、幽霊のように扱われていたんじゃないかな?」
岩岡が言うと、卓也は黙ってしまった。
「今日ブランコの所で見た時に感じたんだ、私と一緒で居場所が無いとね。」
「・・・・うん、僕は家の中では透明人間なんだ。嬉しいことがあっても、志野姉ちゃんに夢中で聞いてくれない。それでも父さんだけは振り向いてくれた、その時はイライラしていていつも叩かれていたけどね。」
「そうか・・・、自分から助けを呼ばなかったのか?」
「父さんから『家の事は先生に話すな。』と言われていた、それに顔とかは叩かなかったから分からなかったと思う。」
つまり大輔は、服を着ていても露出してしまうところは避けていた。なかなか狡猾である。
「酷い父親だね、どうしてそうするのか聞いたことはあるのか?」
「無い。」
岩岡はそれ以上何も言わなかった。そして二人は公園に戻って、眠りに着いた。
そして翌朝、岩岡と卓也はあてもなくこそこそ歩いていた。岩岡がやっている仕事も月に五回ほど、決して収入は安定していない。
「ほら、今日はあそこに入ろう。」
岩岡と卓也が入ったのは、涼子と隆夫が営んでいる食堂だ。
「いらっしゃい、あら岩岡さん来てくれたのね。」
「ああ、今日はこの卓也くんに食べさせたくて来たんだ。」
涼子は卓也を見つめた。
「この子、岩岡さんの?」
「いいや、公園で知り合った。」
「君、年は何歳?」
「八歳です。」
「まあ、どうして岩岡さんと一緒に?」
「父さんとケンカして、家を追い出された。」
「こんな年なのに、なんて酷いことを・・・。わかった、おじちゃんが美味しいご飯を作るからね。」
卓也は元気よく頷いた。そして岩岡とカウンター席に座り、かつ丼を注文した。
「岩岡さん、質問してもいいですか?」
「ああ、いいよ。」
「岩岡さんは、どうして・・・ホームレスになっちゃったの?」
「・・・追い出されたからだ。」
「家から?」
「ああ、妻も娘もいたというのに・・・。」
「どうして・・・、追い出されたの?」
「妻の両親から用無しと言われた。」
「そうか・・・、岩岡さんも家の中で辛い思いをしていたんだ。」
「ああ、せめて会いたかったなあ・・。」
「今でも、会いたいの?」
「当たり前だ、君だってそう言っていたんだろう?」
そして卓也のところにかつ丼が運ばれた、卓也はかつ丼を美味しく食べた。
「岩岡さん、本当に何も食べなくていいの?」
「ああ、こう見えても五日は何も食べずにいたんだ。これくらい、どうという事は無い。」
岩岡はこう言ったが、本当は空腹はつらい。
「岩岡さん、我慢することは無い。俺が何か作ろうか?」
「隆夫さん・・、いいんですか?」
「もちろんだ、もう一つかつ丼か?」
「じゃあ、それで。」
するとそこへ眼鏡をかけた若い男が、入店してきた。
「いらっしゃい、宮森君!」
「涼子さん、いつものお願いします。」
「はいよ、あんたーっ!焼きそば一つ。」
宮森は岩岡から二席離れた所に座った。
「あのーっ、あの人いつもここに来ているのですか?」
「ああ、宮森君。彼はここから近い大学の寮に住んでいて、よく休日の昼には来てくれるんだ。」
「そうなんですか・・・。」
岩岡は宮森の顔をじっと見た、どこか悲しそうな眼で、もうすぐ自身にとって辛いことが起こる前触れの眼をしていた。そして岩岡の注文が届いてから五分後。
「はい、焼きそば。」
「ありがとうございます。」
宮森は焼きそばをすすりながら、泣き笑いした。
「美味い、美味い。」
「どうしたんだい?泣けるほど、この焼きそばが美味しいのかい?」
「・・・僕、大学を中退するんです。」
「それは急だね・・・、何があったんだい?」
「お金が無いんです、母親が先月亡くなってしまい生命保険を貰ったのですが・・・、半分兄に取られてしまって・・・学費が払えなくなってしまいました。もう生活費だけでやっとなんです、明日退学届けを出しに行こうかと思います。」
「そうか・・・可哀そうに・・。」
岩岡はチャンスだと思った、岩岡は宮森に話しかけ涼子さん了解の所、一緒に店の外に出た。
「あの、話しというのは何ですか?」
「これは失礼、私は岩岡武だ。君、お金に困っているんだね?」
「もしかして・・、何か裏の・・・。」
「誤解しないでほしい、私は君に直接お金を渡したいんだ。」
「あなたが・・ですか?」
「そうだ。正直、君はいくらほしい?」
「・・・六十万円・・。」
「わかった。」
そして岩岡は仏像を振った、そしていともたやすく六十万円を出した。
「えっ、うそ!」
「ははは、このお金はもちろん君の物だ。」
「いいんですか?」
「ああ、これで大学を無事に卒業してくれ。」
宮森は感動のあまり、号泣した。
「ありがとうございます、この恩は忘れません。銀行に行ってきます!」
「ちょっとその前に、お代を払わないと。」
「ああ、そうでした。」
宮森は焼きそばのお代を支払うと、六十万円をリュックに入れて、大急ぎで銀行へと向かった。
「岩岡さん、どうしてあなたはお金を払うの?」
「じゃあ、店を出てから話そうか。」
岩岡は卓也が食べた分のお代を払った(岩岡のは、ラッキーサービスでただ。)
そして店をでると、岩岡は卓也に七福神との約束を話した。
「私は幸せを掴むために、七福神から借金をしたんだ。」
「えっ、ホント!いくら借りたの?」
「七億だ。」
「七億も!?そんなに借りて、返せるの?」
「七福神は他人を幸せにすることで、ツケを返してと言われた。ただし、七億全てを使い切らないと、私は地獄に落ちてしまうのだ。」
「それは大変だね・・・。」
まだ三億五千万も使ってない岩岡、果たして本当に全て使い切れるのか?
そして翌日、岩岡と卓也はまた街をぶらぶら歩いていた。ただ岩岡としては、早く卓也と住める家が欲しかった。
「早く家が手に入るという、幸せがこないかな・・・。」
歩いていると卓也と同い年の男子が、やってきた。
「卓也!一体今まで何してたんだよ!」
「大木君、ごめん。心配かけて・・。」
「親に捨てられたと聞いて、本当に驚いたよ・・・。所で、このおっさん誰?」
「岩岡さん、今一緒に暮らしているんだ。」
大木は岩岡の服装をまじまじと見つめた。
「もしかして・・・、二人ともホームレス?」
岩岡と卓也は頷いた。
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